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 それだけではない。
 自分の作るご飯。気に入ってもらえているのは、たまにもらえるメモからなんとなく感じられていた。
 だけど、実際に目の前で食べてもらうところを見ていたら、はっきり実感した。
 天堂は、自分の作るご飯を気に入ってくれているのだ。
 その証拠に、箸が止まることは滅多になかった。たまに「これ、なんて野菜だ」なんて聞いてくるときくらい。大体はぱくぱくとぺろりと平らげてしまうのだ。
 直接「うまい」と言ってくれることはあまりなくても、その様子が一番の『おいしい』と思ってくれている反応である。
「ありがとうございます」
 なので鈴のお礼も明るい声になってしまった。天堂はその反応を見て、ちょっとだけ口のはしを上げる。
「映画を見てたんだが。ちょっとこっちに来ないか」
 しかし次に招かれて、鈴は驚いてしまう。こんなことを言われたのは初めてだ。
 仕事が終わったらすぐ部屋に戻ってしまっていたし、ほかのプライベートな時間もほとんど自室で過ごしていた。
 住まわせてもらっているとはいえ、あまりほかの部屋へ行ったりするのは失礼だろう、と思って。
 よって、自室がじゅうぶん広いこともあって、それで満足していたのだ。
 なので、リビングで過ごすのもほぼ初めてである。
 でもいいか、と思ってしまった。夕食の時間が心地良く過ぎたことで、明るい気持ちになっていたのもあるかもしれない。
「で、ではお邪魔します」
 ソファにちょこんと座った鈴。ソファは三人掛けくらいはあるだろうか。かなり大きい。
 よって、天堂から少し離れた場所に座ったのだけど、それは何故か、気に入られなかったらしい。
「こっちに来いと言ったのだが?」
「わ!?」
 天堂は不意に腕を伸ばしてきた。鈴の腰に回して、ぐいっと引き寄せてくる。
 それはまるっきり、少し前にお風呂で抱き寄せられたときと同じであった。
 鈴の心臓がどきんと跳ねる。ひとつのソファに一緒に座るなど、無防備だったのだろうか……?
 でももう遅かった。引き寄せられるままになってしまい、気付いたときには体が触れていた。
 肩くらいではあるが、鈴にとっては刺激が強いどころではない。どくどくと心臓はうるさく騒ぎだしてしまう。
「なんだ、映画を見るだけだぞ」
 なのに天堂はしれっとそんなことを言うのである。
 映画を見るのにこんなに密着する必要ある!?
 鈴は思ったけれど、やはりそんなことは口に出せやしない。「そ、そうですね……」なんてもにょもにょ言うしかなかったのである。

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