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「……あ?」
がらり。
脱衣室のドアを開けた途端。むわっと湯気が漂ってきた。
鈴は、え、と思ってしまう。
まだお湯も溜めていないのに湯気が?
しかし一瞬で気付いた。こちらを見て、不思議そうな声音で低い声を出してきたのは、天堂だったのだから。
風呂から上がったところらしい。
鈴の心臓が一気に跳ね上がった。
そ、そうだ、お風呂のタイミング!
ちゃんと聞いて、かち合わないようにしないといけなかったのに!
なんて失礼なこと!
その後悔に心臓が跳ねたのだけど、次に別のところに気付いて、今度は違う意味で跳ね上がった。垂直跳びのように、喉奥まで来るかと思ったくらいだ。
天堂は風呂からあがって、脱衣室で体を拭いていたところ、という様子であった。
つまり、ほとんど裸の姿……。
かろうじて腰にはタオルが巻いてあったものの、体はまだ濡れていて水滴がついているし、風呂に入ってあたたまったからか、顔も体も上気している。
髪だって洗ったままなのだろう、持ち上げているぶん、長めなようで、首に少しかかっていた。
男性の湯上がりの、おまけに半裸の姿なんて、鈴はまともに見たことがあるはずがない。過去の彼氏とも、泊まりはしたことがないのだから。
かぁーっと顔が熱くなる。
こちらのほうが恥ずかしくなってしまって。
「あ、あ……す、すみませ……」
真っ赤な顔で、しどろもどろになってしまい。風呂のドアも即座に閉められなかったくらいだ。
その鈴の様子を見て、天堂は驚きからむしろ立ち直ったらしい。笑みを浮かべた。
その笑みは良いものだったはずでない。からかうようなものであった。
「覗きとは大胆なことだ」
笑われる意味もわからずに、鈴は口をぱくぱくさせるしかない。
漂ってくるお湯の香り、良い香りがするのは入浴剤だろう。湿った空気は鈴に、特殊な状況を伝えてきて、頭を更にくらくらさせた。
「ち、ちが……そんな、つもり……は、……っ!?」
なんとか弁明しようとしたのだけど、そこで、ぐっと鈴の手が掴まれた。
言いかけた言葉は途切れる。それだけでなく、ぐいっと引かれて、鈴はよろけた。
そのまま前につんのめって、気付いたときには天堂の胸にぶつかっていた。