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「なんだか新鮮だな」
2人、ダイニングの席についてご飯を並べ「いただきます」と食べはじめてから、天堂がぽつりと言った。
今日のご飯は本当に簡単に、にらや卵、玉ねぎに牛肉を炒めてオイスターソースで絡めた野菜炒め。
じゃがいも、にんじん、こんにゃく、豚肉という具だくさんの豚汁。
白いご飯に青菜の炒め物を混ぜた混ぜご飯。
それから漬け物。
本当に『家庭の和食』になって、こんな感じで良いのかと思いつつも出したのだが、天堂は特になにも言わなかった。ダイニングテーブルの前、椅子に座って「お前もさっさと座れ」と促してきて、箸を取った。
天堂はまず、豚汁のお椀を手に取って、ひとくちすすった。まだ熱いはずなのに、猫舌ではないのか、気にした様子もなく汁を飲み、中の具も摘まんでいった。
鈴も初めてのこの家のご飯に緊張しつつ、同じようにお椀を手にした。
お椀は新品であった。これも特別に用意してくれたのだろうか。
思いつつも、そんな不躾なことは聞けない。ただ、静かに豚汁をすすった。
出汁が効いていて優しい香りがふわりと広がる。やわらかく煮えた具も、旨味が染み出して良いハーモニーになっていた。
あつあつの豚汁は、夏でもおいしい。冷房で多少は体が冷えるからだろう。お腹に心地良く染み入った。
おいしい。
自分で満足できて、ふっと微笑んでしまった。その鈴を見て、天堂が「新鮮だ」なんて言ったわけだ。
「そう、ですね。私も不思議な感じです」
雇い主の天堂と一緒に食卓につき、今まで作るばかりだった料理を食べているなんて。不思議どころではない。
だが、天堂の言ったことは少し違っていた。
「それもあるが、この家で飯を誰かと食うのが、な」
ああ、なるほど。そっち。
鈴は納得する。確かに独り暮らしなのだから、家で誰かと食事というのはなかなかないだろう。