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第九十四話

彼女がいなくなった日から2年が経つ。


俺はあの後、日の丸テレビ本社の河田社長に呼び出され、ここ数年視聴率が低下している東京支局で一からやり直してみないかとの話を持ち掛けられた。


最近テレビや新聞を見ていなかったから知らなかったが、どうやら以前の桜井社長の持病が悪化したらしい。


古狸の大将は退職。


その後、急遽選ばれたのが本社の取締役、河田だった。


圧倒的提案力、分析力、流行への感覚。


面識はなかったが、直接話して分かった。


奴は俺と同じタイプの人間だ。


例の件については社長も把握していたらしい。


だが、俺の仕事ぶりを以前から高く評価していた支局の常務が、社長に直談判してくれたのだ。


俺に解雇を言い渡した菅沼部長は、視聴率が下がっている原因を詰められ、鬱病になって退職。


全く、人生何が起こるか分からないものだ。


オーリーズのこれからについては、AV事務所の社長との話がついている。


俺が考えた計画書に沿って、久保田が進める段取りだ。


あいつは仕事は遅いが、着実に進めていくタイプだからな。


きっと成し遂げられる。


事務所へ辞表を提出した日にそう言うと、あいつは鼻水の垂れた顔をくしゃくしゃにして、「ウィルソンさーん! 僕、好きになっちゃいそうです!」と抱き着いてきた。


牧野たちも、泣いてたな。


……何だかんだ、良い奴らだった。


こうして、俺は再び日の丸テレビへ籍を置くこととなった。


様々な部署へ異動をしながら、俺は順調に昇進。


そして半年前、俺はやっとプロデューサーとしての地位を取り戻した。


俺の元部下たちは真のプロ意識を持った上司が帰ってきたと喜んでいた。


まぁ俺も感極まるものがあって、数日は口元を緩ませていたが。


しかしそれもつかの間。


厳しい表情で画面を睨み、時には怒号を飛ばす以前の鬼上司に戻ってしまうと、彼らは俺がいない所で、以前のように「憂鬱だ」と愚痴っている。


だが、彼らが楽し気に俺の悪口を言うのを聞くと、俺は安心するんだ。


——あぁ……俺の居場所はここなんだ、と。

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