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第九十話

——ピルルルル!


スマホの着信音がアパートに反響する。


我に返った俺は、牧野を隣へ下ろした。


「もう、誰なのよ!」


牧野はムードをぶち壊されたと拗ねている。


上着のポケットに入っているスマホを取り出し、相手を確認した。











——日の丸テレビ。


……嘘だろ? 


日の丸テレビ? 


酒は視覚にも影響するのか?


瞬きを繰り返してもう一度画面を確認する。


——日の丸テレビ。


やはり間違いない。


日の丸テレビだ。


会社の電話を登録しておいて、そのままだったんだろう。


電話は今も鳴り続けている。


酔いの醒めた俺は通話ボタンを押そうとした。


「取らないで!」


牧野は俺からスマホを奪い取った。


「っ……! おい、返してくれ」


「嫌よ! あんたが辞めようとしている理由なんでしょ? これが!」


「……返すんだ」


「…………」


「牧野!」


まだ電話は鳴り続けている。


「お願いだ……返してくれ」


いつ電話が切れてもおかしくなかった。


「頼むよ………………」


「………………………………わかったわよ!」


牧野は渋々スマホを返してくれた。

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