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第七十八話

35歳にもなって両親の前でこんな風に泣くなんて思ってもみなかった。


彼女がいなくなってからの俺は、腑抜けた人間だ。


泣き虫だ。


父さんは珍しく口元を緩めて微笑んだ。


「そうだな……父さんたちは、お前がこっちへ帰ってきてくれたら随分助かるな」


「っ……! じゃあ——」


「だが、お前はそれでいいのか? そうやって中途半端に終わらせていいのか? ルークは昔からそういうのが嫌いだっただろう」


確かに父さんの言う通りだ。


何事も最後までやり通すことは人生で糧となる。


どの自叙伝にも書かれていたことだ。


だが以前のような強い気持ちを取り戻せるのだろうか。


俺に、出来るのだろうか。


「……父さん、俺に出来るかな?」


「出来るとも! 父さんと母さんの子だしな。ルーク、気持ちで負けるな! 

テレビ局のプロデューサーになった時、お前言ってたじゃないか。『俺は出来る』って」


「そうよ! あたし毎日あんたの番組録画してたんだから! 全部DVDに焼いて、今も持ってるのよ? ルーク、日本人を見返してやりなさいよ」


母さんは漫画で星が瞬くようなウインクをした。


俺が落ち込んだりしている時でも、母さんだけは明るくひょうきんだった。




「ふふっ、そうだな。俺らしくなかった。今の仕事で上手くいかないことがあって、自暴自棄になっていた。

…………英語教室は、まだまだ2人で頑張ってくれ。俺はもう少しこっちで頑張ってみるから」


「うん、それがいい。……なあルーク。今度からは、ちゃんと連絡するんだぞ?」


「わかったよ父さん。心配かけてすまない。また電話する」


両親は満足そうな顔でこちらに手を振っている。


俺は両親を眺めながら、ゆっくりと画面を閉じた。

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