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第六十一話

僅かに出来た雨雲の裂け目から、夕陽が山間に沈んでいくのが見える。


降り出したばかりの雨が屋根から滴り落ちていくのを、彼女はじっと見つめた。


「私は……この場所からやってきた。

…………ずっと、長い間、ルークと話せる日を待っていたの。ルークが私を救ってくれた時から………………」


気を抜くと聞き零してしまいそうで、つい体が前のめりになる。


「和歌を何かから救った記憶はないんだが……。それにこの場所からやってきたとはどういう意味なんだ? この辺に家があるのか?」


背中越しに見る彼女はどこか寂し気だ。


昼間はっきりと見えていた彼女の足元の影が、東屋の暗闇に溶け込み、地面との境目が不明瞭になっている。


言おうか言うまいか、彼女の口が迷っている。


なかなか続きを話そうとしない彼女。


催促したいのをぐっと我慢していると、遂に決意した彼女が真実を語り始めた。


しかしそれはあまりにも唐突で、突拍子もないものだった。






「私はこの地に生えている金木犀なの」

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