シャルル・ド・ゴール
空の旅はあっという間だった。
以前、航空時間の短い台湾に言った時でさえ、体がガチガチになったのに、むしろ羽が生えたように体が軽かった。ビジネスクラスは快適だったと認めざるを得ない。
そうはいっても、体の軽さはビジネスクラスのおかげだけではなかった。
私は今、フランスの空気を吸っているのだ。子どもの頃から憧れていたシャルル・ド・ゴール空港。その空気を吸えただけで、特別な気分だった。
「できた」
海外用のSIMカードをスマホに入れ、接続を確認する。初めての経験だったが、うまく出来たようだ。カズナリ君は手慣れた様子だった。
「結構海外行くの?」
「うん」
考えてみれば、カズナリ君のことをほとんど何も知らない。しかし、昂ぶっていたので、この旅行でいろいろ知れたらいいな、むしろ楽しみだな、と思った。
スマホが反応する。何件かラインが入っていた。太一やリエちゃんから飛行機に乗っている間に送られてきていたメッセージが来ていた。
『着いた~?』
『お土産は恋バナで』
適当なスタンプを押して、そっと閉じた。それにしても夜に出発したが、時差で八時間フランスは遅い。変な感じもするが、お得な気もする。
もう一件メッセージが着ていた。佐々木くんからだった。
心配する内容の後に『とりあえず、大事にならずに済みました。安心してください。休み明けに会いましょう。夏休み楽しんでください』とあった。
大事にならずに済みました。安心してください・・・?
波風立たないことが佐々木くんにとっては、良いことなのだな。あの中学校みたいな感じが、帰ったらまた続くのかと思うと、胸がチクリとした。
まぁ、仕方ないか。
けれど、フランスの空気がやはり私にそうさせるのか、『ああ、存分に楽しむよ!』という反骨心含みの炎が胸の内で燃え上がるのも感じた。
「そろそろシャトルバスが出るみたい。行こっか」
カズナリ君が微笑む。
「うん!」
私は力強くうなずいた。