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第三十六話

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「お待たせしました。」


子犬のようにこちらへ駆けてくる彼女に、つい頬が緩んでしまいそうになる。


「いえ。……和歌さん、これは私からのプレゼントです」


案の定、彼女は慌てた様子で両手を振っている。


「え!? いや、さすがにこれは……」


「もう支払いは済ませましたから。それに、今日私に付き合って頂いたお礼をしたかった」


彼女は自分がまだ何もお詫びを出来ていないことを申し訳なく思っているのだろう。


勿論俺は、お詫びをして欲しいなどとは一切思っていない。


俺にとってそれはただの名目。


本当は彼女がどんな人物なのか知りたいのだ。


一目見た時から元プロデューサーとしての勘が、彼女には何かがあるとサインを送っている。


芝居がからないよう、俺は自然に思いついたように言葉を続けた。


「では、来週の土曜日、1日私に付き合って頂くことが、和歌さんからのお詫びということにしてはどうでしょう? 

丁度行きたいところがありまして……和歌さんが一緒に来て頂けると、私も嬉しいのですが……」


彼女は頬に手を当てて悩んでいたが、考え直したようだ。

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