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第一話

ルーク・ウィルソン。22歳。


日本で育てられたこともあり、俺は2ヶ国語をマスターしている。


昔から頭の回転は速く、大学のバンドサークル仲間からは総長と呼ばれていた。


文武両道の俺にはいくらでも道が開けていたが、日本で英語教室を営むカナダ人の両親の勧めもあり、俺の大学卒業後の進路は日本の有名テレビ局、日の丸テレビに決まった。




入社後は順調に現場での経験を積んだ。


入社3年でディレクターとなり、『朝からドンピシャ』を始めとする数々の人気番組の企画・制作を担当。


社内でその手腕が認められ、遂には28歳という異例の若さで、番組制作責任者であるプロデューサーにまでのし上がった。


社内では、次の時代を担う若きエースプロデューサーとして期待されている。


日の丸テレビ始まって以来の逸材だとして、俺は他局からも注目を浴びることとなった。


ネットニュースでも話題になり、テレビ局ではあまり例を見ないが、プロデューサーである俺を特集した番組が放送。


以降ますます仕事が舞い込んで忙しくなった。


家に帰れないことなどしょっちゅうだ。


しかしそれでも俺にとっては生き甲斐だった。


誰もが羨む成功者として、日々仕事漬けの毎日を送っていたのだが、この輝かしい人生も33歳を最後に大きく崩れ始める。


自民党参院幹事長である田所氏の問題発言をニュース番組のVTR中へ使用したことで、本人より抗議のFAXが本社に送られてきたのだ。


本社の役員共はこれを受け、田所氏へ謝罪をする段取りを求めてきた。


勿論俺は「報道の自由を守るため、恭順するような態度を示すべきではない」と、断固反対した。


しかし反論も虚しく、翌日には番組のアナウンサーが「番組内に不適切な表現があった」として謝罪する羽目になった。


最後まで意見を変えなかった俺は、あっさりと上層部から見捨てられ、解雇された。不当解雇も甚だしかったが、政治家の息のかかったテレビ局では不当な事などいくらでもある。


気持ちを切り替えて他のテレビ局へ採用の打診をしてみるも、皆遠回しに断ってきた。


日の丸テレビの上層部から根回しされているのだろう。


テレビ業界に復帰する望みを絶たれた俺は、やむを得ず新たな業界へ足を踏み入れることになる。

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