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依頼と提案

 経緯はどうあれ、大陸を渡った者が現れた。それは進歩と呼べる快挙で、今後の発展が期待されるのだが、そんな折にれいの下に一つの依頼が舞い込む。
「………………世界の再生ですか?」
 それは、管理者を失って崩壊寸前にまでなった、とある世界を管理して欲しいという依頼だった。依頼内容は、その世界が安定するまでの一時的な管理らしいが、他の管理者はどうしたのかというれいの問いに、依頼をしてきた第二世代の管理者の一人は、困ったようにこう答えた。
「それが、他の管理者では難しく……」
 つまりれい以外では能力が足りていないので頼めないということらしい。
 もう少し詳しく聞くと、既に崩壊寸前まで陥っている世界を修復して安定させるには、第二世代や第三世代辺りでなければ能力的に難しいらしく、しかしその辺りの管理者の統括をしている者達は他にやることが山ほどあって手が回らないとか。その中には同様の案件も多く、一つ一つにどうしても時間が掛かるうえに、第二世代でも掛け持ちは厳しいという。
 後はれいならば、という最後の望みに縋ったかたちらしい。
「………………そもそも、何故管理者を失ったのですか? それに、そうなる前に何らかの手を打たなかったので?」
 管理者を失っても、それで即世界が崩壊というわけではない。そこまでにはある程度の猶予がある。なので、その時に手を打てば、わざわざれいに依頼するまでにはならなかっただろう。なので、そこがれいには不思議だった。
「管理者はその……管理者同士の争いで……」
 非常に言い難そうに言葉を濁しながらも、そう答える第二世代の管理者。
「そして、そういったケースが最近頻発しておりまして、注意していたのですが、とうとう許容量を超えてしまいまして……」
 苦々しそうにそう口にするも、それはれいにとってはどうだっていい話であった。ただ、とりあえず理由は判明した。とてもくだらない理由が。
「………………」
「………………」
 それは相手も重々承知しているようで、れいが口を閉ざしている間、相手も申し訳なさそうに口を閉ざしていた。
「………………それは一つ二つどうにかした程度で解決出来る問題なのですか?」
「いえ、根本的な部分では解決には至らないかと」
「………………そうですね」
 相手の意見にれいは同意する。かといって、解決策も無いのだろう。本当にいっぱいいっぱいのようで、何を話しても上手くはいきそうにはない。
 ただれいとしては、自身が距離を置くために管理を押しつけた部分もあるので、多少は手を貸そうかという思いはあった。もっとも、管理代行の依頼を受けるつもりはないが。
「………………ではこうしましょう。貴方達管理者を統括する側全員の能力を引き上げるというのは」
「それは大変ありがたいですが……可能なのですか?」
「ええ、勿論」
 不安そうなその問いに、れいは即座に頷く。それとともに、まずは相手の能力を引き上げた。元々管理者と言うのは潜在能力はそれなりに高いのだ。創造主により制限が設けられていて、そこまで大きく成長できないだけで。
 その制限を外すだけでも問題解決には十分ではあるが、それでも成長までに若干時間が掛かる。なので、れいは全員が協力すれば即座に問題を処理できるまでに能力を引き上げることにした。
「………………これぐらいでいいでしょう。他の者も能力を引き上げるので、通達だけは出しておいてください。それが終わったところで実行しますので」
「ありがとうございます」
 依頼をしに来た相手だったが、それを忘れたかのように頭を下げて、心の底からの感謝の言葉を述べる。
「………………別に構いませんよ。ああその代り、先程の依頼はお断りしますので」
「はい。それ以上のモノをいただきましたので!」
 念のためにれいが確認すると、直ぐに問題ないと返ってくる。あとは通達を任せて、れいは相手を見送った。第二世代の管理者は全員が教え子でもあるので、そういうところでも多少は甘くなったのかもしれない。
 それから少しして、通達を終えたのを確認したれいは、通達を受けた全員の能力を底上げしたのだった。

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