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愛、それは……バレンタイン~ その1

 ツメバを罠にはめた闇の嬌声の足の爪ですが、次の日スアビールを買うために店にやってきた辺境駐屯地のゴルアにですね
「いやぁ、昨日こんなことがあってね……」
 って話をしたところですね、
「なんですって! 闇の嬌声の者達がいたのですか!」
 って言いながら、右手の拳を握りしめ、目をクワっと見開きました。
「あの者達、地下にもぐったと思いきや、こそこそこそこそ小賢しくあくどい事を繰り返し、各地で問題を起こしまくっているのですよ! こうしてはいられない!」
 そう言うや否や、ゴルアはすごい勢いで店を飛び出すと、乗ってきた白馬にまたがり駆けだして行きました。
「……おいおい、場所を聞かずに言っちまったけど……大丈夫なのか?」
 僕は、店の扉から顔を出して、ゴルアが消えていった方角を見つめていました。

 ……で、閉店間際になってですね
「す……すまない店長殿……わ、私としたことが……ば、場所を聞かずに飛び出してしまい……」
 なんか、ゴルア……息も絶え絶えになって帰って来ました。
 で、そんなゴルアに、今度はきちんと場所を説明しておきました。
 疲労困憊な上に、その場所は馬だと今日中にはたどり着けない距離です。
「どうする? スアに頼んで転移ドアを出してもらおうか?」
「……あ、いえ……日も暮れますしここまで疲れていては……明日改めて向かおうと思います」
 そう言うと、ゴルアはとぼとぼと辺境駐屯地に向かって戻って行きました。
 スアビールを購入制限まで目一杯買うのだけは忘れずに。

◇◇

 その日の閉店後、巨木の家をツメバとチュンチュが訪ねてきました。
「店長のおかげで、下界で夫婦揃って暮らすことが出来るようになりました」
「ご挨拶の品物をおもちしたのですぅ」
 二人は仲睦まじい様子で、リビングの椅子に並んで座って……というか、ツメバの膝の上にチュンチュが乗っかってます、はい。
 僕は、スアと並んで座って二人としばらく雑談を交わしていきました。
 程なくして、二人は転移ドアをくぐってララコンベへと帰って行きました。
 今日は、チュンチュが般若化することはありませんでした。
 まぁ、あれです。
 かなり極端な性格のチュンチュですけど、それだけツメバのことが大事だってことなんでしょう。
 
 で、二人を転移ドアのところまで見送った僕とスアは巨木の家へと戻ったのですが……
「……旦那様、ちょっと」
 スアがそう言いながら僕の手を引っぱります。
「ど、どうしたんだいスア? いきなり」
 ちょっとびっくりしている僕の手を引っ張りながら、スアは先ほどまで僕達がツメバ夫婦の相手をしていたリビングの椅子に僕を座らせました・
「……失礼します、ね」
 そう言うと、スアは僕の膝の上にちょこんと座ってきました。
 あぁ……これはあれですね。
 さっき、チュンチュがツメバの膝の上に乗ってたアレ。
 スア、きっと羨ましくてしかたがなかったんでしょう。
 ただ、ツメバ達の目の前で同じ事をするのが恥ずかしかったもんだから、二人が帰った後、こうしておねだりしてきたわけですね。
「甘えんぼさんだなぁ、スアは」
「……えへへ」
 僕に頭を撫でられながら、スアはほっぺたを赤くして嬉しそうに微笑んでいます。
 しばらく僕は、そんなスアを膝の上にのせていたのですが、
「じゃ、そろそろ部屋に戻ろうか」
 僕がそう言いながらスアを足元に降ろして椅子から立ち上がろうとすると、
「パパ! 次は私です!」
「はい?」
 横からいきなりパラナミオが手を伸ばしてきたかと思うと、立ち上がろうとした僕の太ももを押さえてきました。
 振り向いてみると……パラナミオの後ろにはですね、リョータ・アルト・ムツキの順番で一列に並んでいるんですよ。
 ムツキにいたっては、わざわざ少女化して並んでいるんでいるではないですか。
 まだ、赤ちゃんのため、1日の間に数十分しか少女化出来ないその貴重な時間を費やしてまで、僕の膝の上にお座りしたかったらしいムツキは、
「パパぁ、早くぅ!」
 そう言いながら地団駄を踏んでいます。
 そんなムツキの姿に苦笑しながら、僕はこの後、子供達全員を順番に膝の上にのせてやって、頭をなでなでしていきました。

 こんな感じで、家族皆で愛情を確かめ合ったと言いますか、いつも仲睦まじいタクラ家です、はい。

◇◇

 さて、セツブンも済んだわけですが、僕が元いた世界ではこの2月、この世界で言うところのツエの月にはもう一つ、コンビニ的にも外せない行事があります。

 そう、バレンタインデーです。
 
 事前にスアやブリリアン達に確認しているのですが、この世界にはバレンタインデーはありません。
 クリスマスがパルマ聖誕祭と被っていたように、何か別の行事が重なってもいない模様。
 となると、これはセツブンやオネの1日のおせち料理同様、勝手に盛り上げるしかありません。

 幸いなことに、チョコレートはですね、店の在庫で残っていた板チョコを原料にして、いつものプラントの実で増産することに成功しています。
 ちなみに、このチョコの実はちょっとすごいです。
 プラントの実の中身がですね、丸ごとチョコなんですよ。
 なので、実の皮を剥いていくとまぁるいでっかいチョコの実が出現するわけです。
 当然、このままでは販売出来ませんので、僕はスイーツ担当のヤルメキスと、その助手……
「あら、店長さん、その名前はおやめになってとお願いしたではありませんか、ねぇミュカンさん」
「えぇキョルンお姉様、私もそう思いますわ」
「あ、あぁそうでしたね」
 というわけで、改めまして、『ゴージャスサポーティングメンバー』のキョルンさんとミュカルンさんに、湯煎作業から生成作業を実際に体験してもらっていきました。
 三人ともお菓子作りには慣れていますので、最初こそ若干手間取っていた感じでしたが、すぐに手慣れた感じになっていきました。
 カウドンのミルクを混ぜてミルクチョコも精製しています。

 そんなチョコをハート型を中心に様々な大きさ・形に成形しながら袋に入れて包装していきます。
 包装作業は、ルービアスが頑張ってくれてます。

 で、宣伝用のポスターですが……これは若干揉めました。
 いえね、今回はバレンタインデーなわけです。
 つまり恋人や好きな人にチョコをあげる日なわけです。
 そんな感じを一発で表現出来るような写真を……と思ったらですね
「……ママよ、もちろん」
「いくらママでも、これは譲れないのです!」
「おぅああう!」~ぼくがやる!~
「あ~!」
「ムツキにゃしぃ!」
 と、本命のスアに対し、パラナミオ・リョータ・アルト・ムツキの四人がやる気満々でにらみ合いを始めてしまいまして……
「っていうか、リョータ、お前は男の子だろう? なんで加わってんだ?」
 僕がそう言うと、リョータは僕の脳内に思念波を送ってきました
『僕だって、パパのことが大好きなんです! 男の子じゃあいけないんですか!?』
 なんか目をウルウルさせながら訴えかけてくるんですよ……
 若干、中性的な顔立ちをしているリョータですんで、女の子がウルウルしているように見えなくもないんですけど……ちょっと今後の教育方針をしっかり立てていかないと、道を踏み外しかねないかも……と、よからぬ心配までしてしまったわけですが……

 で、結局ですね、スアも子供達相手に本気になるわけにはいきませんし、子供達もスアを押しのけてまで……とは思っていなかったみたいで、かといって家族写真的にするのもアレですよね……愛がテーマですんでねぇ……そんな感じで話合いは膠着していきまして……

 で、折衷案といいますか……今回は男装したゴルアに、メルアがチョコを渡している姿をポスターにすることにしました。
 いえね、前回ドンタコスゥコ商会の皆さんがゴルアを美剣士と思い込んだ事件があったわけなんですけど、言われて見ればゴルアって宝塚の男役見たいにキリッとしたお顔立ちをしているんですよ。
 で、メイクと衣装選択をヤルメキスの助手……じゃなかった、ゴージャスサポーティングメンバーのキョルンさんとミュカンさんにお願いしたところ、ゴルアとメルアはまるで舞踏界の伯爵と姫ばりの出来上がりとなっていたんです。
 最初は難色を示したゴルアとメルアなんですが、
「……タクラ店長のおかげで、闇の嬌声の足の爪の首謀者を捕縛出来たわけだし……こ、今回だけですよ!」
 そう言って、僕の申し出を了承してくれた次第です、はい。

 で、ポスターの撮影と加工は僕がデジカメとパソコンでおこないまして、プリンターで打ち出した原稿を元にして印刷作業は魔女魔法出版にお願いしました。
 で、
「はいはい、出来ましたよ~」
 と、魔女魔法出版のダンダリンダがいつものように30分もかからずに大量印刷してきてくれましたので、僕は翌日、これを各店舗に配布し、チョコの予約を開始したのです……が……

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