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ずっと、目が離せない女の子がいた。

彼女の名前はルシール・レンス・ナビア。隣国ナビアの第4王女。

あの日も、彼女が参加するパーティーに、密かに参加していた。
これまで、幾度となく彼女が参加すると聞いたパーティーには、必ず出席していたが、声をかけるは勇気なく、ただ、彼女を見ていた。
しかし、今回はなんとか偶然を装い、彼女に話しかけることができた。
しかし、彼女は私の正体を知ると、血相変えて私に最敬礼と共に謝罪の言葉を口にした。

その刹那、はじめて出会った時のあのことを謝っているのだと直感した。

「謝らないで。私は、あなたを咎めにきたわけではないんだ。ただ、話したくて…。君のことが知りたい。教えてくれる?」

彼女はコクリと頷いた。
その晩、私たちはいろんな話をした。
自分の兄弟のこと、お城での暮らし、城下に出かけたときのことなど、たくさん。
話題は尽きず、夜中もずっと話し込んでいた。
しかし、眠気に勝てず、彼女はうとうとと微睡み始めた。

「ルシール、待って。まだ、眠らないで、あなたに伝いたいことがあるんです」

チャンスは今しかないと、なんとか彼女にか告白する。

「ルシール。私と、ずっと、一緒に生きてください」
「……いいですよ」

そう言って、ふんわりと笑う彼女が愛おしかった。

「左手を出して」

心の中で詠唱し、彼女の薬指の根本に口づけた。その瞬間、彼女を中心に、見えない波が風とともに周囲に広がっていった。

これでいい。

私は内心ほくそ笑んでいた。
あの波は、今から大陸中の精霊たちに私たちの結婚を知らせていく。そして、最後には世界樹にも伝わるだろう。

「まぁ、綺麗…」

ルシールの声で我にかえる。
彼女は祝福の光を目を奪われていた。
“知らせ”を受けて早速やって来たのであろう妖精が、光の粉を振り撒いている。

その時の私は、えもいわれぬ幸福に満たされていた。
彼女と再会の約束をして眠りについたのだが、起きると、隣にいたはずの彼女は居らず、さらに約束の日にも、彼女は来なかった。

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