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77.もう一度、巡り会いたくて…?

 逆に問われて言葉を失う。
 困り果てるちひろに、逢坂が困った顔で腕を組んだ。

「ちひろが一生懸命だから、余計なことに意識を向けないように気を遣っただけだ。あまりに健気で可愛いいから、つい熱血指導してしまったくらいだからな」

「え? そ、そうなんですか? すみません……ええと、その……」

 可愛いと言われ、ちひろは言葉に詰まってしまう。
 オタオタしている姿を見て、逢坂は苦笑を浮かべた。

「せっかくおれの会社で働いてくれることになった以上、楽しく仕事をして欲しいと考えた。しかし君はインナーに拒否反応を示し、それが要因で周囲からも浮いてしまった。それでフィッティングの依頼や、新商品の開発をやらせたんだ。うちの商品が世の女性たちに、どれほど求められているか知ってほしかったからだ。すべてちひろのためにやったこと。意地悪なんてするわけがない」

 そこまで言われて、やっと様々なことが理解できる。

(機能的でもエッチなものでも、下着は女性にとっての必需品だわ。恥ずかしがったり拒否したりするほうがおかしい。今ならわかるけど、当時は全然わからなかった……)

「すみません。妙なこと言ってしまいました。私、子どもでした。逢坂社長の気持ちがわからなくて……」

 逢坂がふっと笑うと、ちひろを見守るように優しく笑う。

「ちひろが、あまりに世間知らずで鈍くさくて頼りないから、目が離せなくて苦労したよ。おれは君がこの会社に入ってくれて嬉しかったというのにな」

(私の入社が嬉しかった……? 本当に……?)

 逢坂の気持ちが、今ひとつわからないままだった。
 どうしてあんなひどい面接で採用してくれたのか、辞めたいと申し出たときも引き留めたのか。
 ちひろ程度の能力ならば、世の中に掃いて捨てるほどいるというのに。

 だが、いつもで彼は助けてくれた。
 助言もくれたしチャンスもくれた。
 それらすべて、ちひろを気にかけてくれていたから。

 入社を嬉しいと思ってくれていたから。

 可愛いと思ってくれていたから――

「君の住む地区のハローワークに、わざわざ求人の募集を依頼したくらいだ。運命の女神は本当にいるんだな。すぐにちひろがおれの会社に面接にきたから驚いたよ」

 ハローワークで、すれ違った男性のことを思い出す。

(あのときの……フレグランスが一緒の男性が……やっぱり!)

 目を見開いて驚くちひろに、逢坂が呆れた顔を向ける。

「それを意地悪とは、実に心外だな」

「すみません……本当に」

 小さくなるちひろの頭を、彼がポンポンと叩く。

「謝るな。おれの気持ちをわかってくれたら、それでいい」

 急上昇してしまう逢坂への気持ちに、ストップをかけたのは次の一言だった。

「長谷川のおかげだな。彼女に頼んで良かった」

「長谷川さん……」

 ちひろの胸にチクリと針のようなものが突き刺さる。

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