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ハードゥスの食糧事情

 ダンジョンクリエーターの在庫が大量に増えた問題は、今なお記憶に新しい。というよりも、現在進行形だったりする。もっとも、れいはもう気にしていないので、たとえ在庫の数が万を超えたとしてもどうでもいいのだ。それに、在庫が大量に余っているのは何もダンジョンクリエーターだけではないし、むしろ今ではダンジョンクリエーターの在庫数の方が可愛いぐらいだったりする。
 それでも開き直ったれいは気にしない。たとえ現在ある在庫だけで、漂着物を集めた一角の大半が直ぐに別の場所で再現出来そうだったとしても気にしない。
 創造主が交代しても創造主の遺産までが消えたわけではないとはいえ、最近は漂着物も減少傾向に転じている。このままいけば、程よい量に落ち着くのではないかと期待もあった。もっとも、それでは在庫がほとんど減らないかもしれないが。
「………………いえ、消費量も増えているのでしたか」
 自給自足をしようと思えば出来るが、地下迷宮など漂着物頼りな部分もある。そういったモノも含めて消費量は増えていた。
 現在のハードゥスでは、農耕や畜産などでの食料の生産量はあまり多くない。というのも、森ではいつでも沢山の恵みが収穫できるし、地下迷宮からも野菜に肉に卵にと食料が大量に出てくる。
 魔物は多いが、魔物の肉は普通の動物よりもおいしいので需要はあった。魔物を飼育できないかと試行する者は居るが、荷駄馬代わりの魔物ぐらいしか成功していない。それに種類も少なかった。
 野菜なども、作れば作るだけ売れるというほどに需要が高かったり、個人的に農作業が好きだったり、自然や地下迷宮からだけでは貴重だったりでもなければ作物は育てられない。
 そういうわけで、わざわざ作らなくとも食料は供給できるという状況が、住民が自ら食料を生産するという行為を阻害していた。もっとも、れいとしては都合がいいので問題ないが。このままそんな生活をしていても、食料が尽きることはまずないだろうし。
 魔物や植物などの食料になる物の他にも、薬などの材料になる物の消費も順調に進んでいる。それ以上に外から補充されて在庫が増えているとはいえ、それも今だけだろう。いずれは安定するようになると思われる。
「………………それに、人も魔物も植物も勝手に増えますからね」
 仮にここから何の補充もしなかったとしても、何だかんだで勝手に世界は回って、勝手に住民達は生きていくのだろう。そう思えるだけに、そういう心配は少ない。れいも補充を止めるつもりはなかった。
 もっとも、れいの一番重要な仕事は世界の維持なので、これだけはれいに放棄されたらハードゥス自体が終わりを迎えてしまうが。
 まぁそれはありえないとして、それだけ消費が増しているというのに、それ以上に供給が多すぎるのだ。
 地下迷宮も攻略される数が増しているというのに同じ状況。
 地下迷宮に関しては、数が多いだけに攻略されずに育ってきた個体も増えてきたので、そちらはしばらく様子見だ。地下迷宮の設置は引き続き行っているのだが。
 余っている物資の中には、他よりは少数だが魔物や人もいる。もっとも、これらは既存の土地が手狭になっただけだったり、もしもの時の備えだったり、実験場所を用意した時に必要だったりなどの理由で、わざと一定数を確保しているだけ。こちらは入れ替わりが結構激しい。
 そういった配置や在庫の管理などの多くをネメシスとエイビスに任せているので、れいが漂着物を集めた一角に関わるのは、最近では専ら新しく何かを創る時とその試験運用の時ぐらい。つい先日も新しい保護区を創ったばかり。
 保護区の管理については主にれいが担っていた。飼育みたいなモノなので楽しいのだろう。そちらもまぁ、順調であった。
 今日もまた何かが減って何かが増える。たまに珍しいモノが流れ着くが、住民にとっては異世界品というだけで珍しいモノではあるのだが。
「………………ああそういえば、少し前に消滅した世界から勇者と魔王とか名乗っているのが流れ着いてきたのでしたか。あれはどうしましょうかね?」

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