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アレックスが首都に入っただろう2日後、真理も多国籍軍のメディア達と一緒に首都に入った。

この2日間でドルトン軍と多国籍軍は南側のウクィーナ国境とその付近に残っていたガンバレン国軍前線基地、北部に残っていた最後の軍事拠点を制圧していた。

ほとんどがもぬけの殻で、途方にくれたような兵士達しかおらず、拍子抜けするような状況だったそうだ。

真理達が首都に入った翌日、巨大な兵力を率いて多国籍軍とドルトン軍、そして僅かに残っていたガンバレン国の民主主義勢力が首都へ侵攻する。

ガンバレン国軍は、占拠していた国防省と大統領宮殿に兵力を集め、多国籍軍にミサイルを放ったが、飛翔経路を完全に多国籍軍に抑えられ、迎撃されてしまい攻撃は失敗に終わった。結局、それが最後の抵抗となった。

それまでの軍のやり方に我慢を強いられていたガンバレン国民達も、流れが変わったことが分かったのだろう。
多国籍軍達と一緒に市中に集まり、軍が立て籠もっているところに押し寄せていく。

真理はランディ達と一緒に、民衆の波の中に飛び込んで、写真を撮り続けた。
自分達の国が、自分達の国の人間のせいで荒廃していったことへの民衆の怒りや悲しみを切り取っていく。

ほどなくガンバレン国軍兵士達は戦う意欲がなく投降をし始め、多国籍軍とドルトン軍は民衆達と一緒に大統領宮殿を戦闘を行わず制圧した。

大統領宮殿で多くの市民達が、軍の紋章が入った旗を燃やして民主主義を叫ぶ姿が世界中に実況生中継された。
この日ガンバレン国軍上層部はウクィーナ共和国国境に僅かに残っていた軍を撤退させ、正式に停戦を国連へ申し入れた。

地上戦がはじまって150時間、首都決戦は免れたが、ガンバレン国の事実上の敗戦が決まったのだった。






「結局、あの国防相は心臓麻痺か脳梗塞あたりで急死してたっていうんだから、驚きだ。なんのために、ウクィーナに侵攻して、戦争になったのか、止める人間がいなかったのが、本当に腹立たしいな」

ランディは撮った動画をチェックしながら言った。

多国籍軍の広報官の会見を見た真理は頷いた。

「本当に。何も得ることなく、たくさんの命が犠牲になった・・・どうしてサイレン将軍が亡くなった時点で、隠さず停戦しなかったのか理解に苦しむわ。息子のイダントはナンバー2のサッシブ大佐のいいなりだったらしいし」

真理は嘆息する。これほどまでに訳の分からない戦争は聞いたことがない。死んだ人達が救われなさ過ぎると感じた。

「しかもサイレン将軍の遺体を保管してたんだろ、考えることが不気味だ」

ランディが言えば、ティナも頷く。

「息子のイダントは停戦合意と、国の立て直しができますかね?元々が傀儡扱いで、政治に疎いとの評判です。それに、大佐のサッシブが自分の部隊を連れて逃走してるのが気になりますね。多国籍軍の特殊部隊が追ってますが、まだ見つかってないし」

敗戦が決まったとしても、この後のガンバレン国がどうなるのか・・・統べる者がいず、無法地帯になれば、それこそこの国に未来はない。

真理も重苦しい顔でティナに同意した。

「敗戦処理はウクィーナへの賠償や軍縮もある。多国籍軍の常駐もどうするのか、など考えること、決めることも多いから・・・せめて、クーデーターの時に辛うじて亡命した王太子と当時の大統領が戻って来れば良いのだけど・・・サッシブを恐れているだろうから、サッシブが捕まらないと戻って来なさそうよね」

真理は撮影した写真を見返しながら、ため息を吐いた。

こういう話の中に、そこで生きる国民をどう導き幸せに暮らせるように、日常を取り戻せるようにするのかは一切出てこない。
いつだって、一般市民が犠牲を強いられる。

まだまだ先の見えない混乱、混迷を極めるガンバレン国の敗戦に、真理は暗澹とした思いで、これからの取材をどうするか考える。

「ランディはこの後、どうするの?」
「ああん?そうだなー、お前の鬼のおじ様は、来週から今回の戦争コラムをデイリー・タイムズの記事と動画で両方やるから首都を撮ったら帰ってこい、って言ってるからなぁ」

俺としてはもうちょい、ウクィーナの奪還したあたりも撮りたいんだが、と考えあぐねるような顔をする。

「そうなのね、おじ様らしいリクエストだけど、私はどうしようかな」

アレックスはまだ首都にいて、多国籍軍と停戦処理を行うだろう。少しでも近くに居たいから、まだドルトンに帰る気にはなれない。

だが、ガンバレン国はだいたい撮り終わっているから、ここにとどまっていてもあまり意味がない。

ふと、ウクィーナ国とガンバレン国との国境付近に、まだ取材をしていない難民キャンプがあることを思い出す。

そのキャンプはガンバレン国の難民が多数流れてきていて、ウクィーナ国の難民と一緒に協力し合いながら生活をしていると聞いた。

襲った国と襲われた国の民が共同で暮らしている様を撮りたい、と思う。

行き先は決まった。
アレックスがドルトンに戻る時が決まるまで、同じ空の下にいたい。

自分がこんな風に思う日が来るなんて、なんて感傷的で乙女のような感情なんだろう。
真理は自分の気持ちに面映さを感じる。

そして、少しでも彼も戦ったこの戦争の真実に近づきたい、青い空を見上げながら、何度も思ったことを、また思うのだった。

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