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布とポルーナとウンジョウ街 その1

 ドンタコスゥコ商会が旅立った翌日……僕はあることを思い出しました。

 ドンタコスゥコ商会が来たら何か聞かなきゃなんないよなぁ……そう思っていたのですが、どうもそれを忘れている気がしてならなかったんです。
 とは言いましても、ドンタコスゥコ商会の皆さんってば、今回も想像の斜め上いく大騒ぎをしでかしてくれましたからね……そりゃ忘れもしようってもんです、はい。
 いえね、子供服を作成するための布を仕入れる話をドンタコスゥコとしようと思ってたんですけど、それをすっかり忘れていたわけです、はい。
 ドンタコスゥコ商会があるナカンコンベには布問屋みたいなのがあるらしくてですね、ヤルメキスが着たウェディングドレスもそこの職人さんがわざわざやって来て作ってくれたぐらいですからね。
 今の子供服の布地は、おもてなし商会のファラさんが知り合いの卸問屋から仕入れてくれているんですけど……そこって、流通量その物が少ないせいかかなり割高なんですよね。
 リョータやムツキ、アルトの服だけを作るのなら僕のポケットマネーで支払いますので少々のお金ならそこまで気にはしないんですけど、今回作成している子供服はコンビニおもてなしで少しでも安く販売しようと思っている品物ですからねぇ……
「しょうがない、布に関しては今月末まで待つしかないか」
 僕はそんな事を考えていたわけなんですけど、
「あら店長さん、どうしたんですです?」
 いつの間にか店に組合のエレエがやって来ていました。
 で、まぁ僕はそんなエレエにですね
「ちょうどさ、布を仕入れようと思ってたんだけど、ドンタコスゥコ商会に話をするのをすっかり忘れちゃってさ」
 と、事情を説明していったんですよ。
 すると、エレエはニッコリ笑って言いました。
「なんだ布ですか。だったら北にあるルシクコンベに行ってみてはいかがです?」
「ルシクコンベって、この近隣の辺境都市の1つなのかな?」
「はいですです。そこって結構な秘境にあるもんですからあまり品物が流通してないんですけど、言い布を作っているんですよ」
 
 確かに興味はあるんですけど……僕はどうにも腑に落ちません。
 このガタコンベに来て1年近くになりますけど、ルシクコンベなんて聞いた記憶がないんですよね。
「このルシクコンベって、季節の祭りに参加してる?」

 この季節の祭りっていうのはですね、この近隣にあります辺境都市が持ち回りで主催を務めるお祭りのことなんですけど、毎年春・夏・秋の三回行われているんです。
 ですが、そのお祭りでもルシクコンベって名前は聞いた事がないんですよね……

 僕がそう聞くと、エレエは少し考え込んでいきました。
 で、しばらくしてエレエがいったのですが、
「参加してる人はいますます」
 そう言ったんですよね。
「参加してる人はいますって、どういうこと?」
「はい、すべての祭りに何人かの人は参加してます。でも都市としては参加してませんってことですです。ちなみにこの街では季節の祭りは開催されないんですです」
「そりゃなんでまた?」
「そうですね……それは実際に行ってみればわかりますます」
 エレエはそう言ってニッコリ笑いました。

 僕的もよくわからなかったんですけど、まぁとにかく布が安く手に入るかもしれないっていうのなら一度行ってみるのもいいかもしれません。

「エレエ悪いけどそこに行く地図かなんかあるかな?」
「それよりも必要な物がありますですので、明日までに準備しておきますます」
 エレエはそう言うと、僕に辺境都市の回覧文書を手渡して帰って行きました。
 僕、一応この辺境都市の領主代理を務めてますんでね、こうして回覧文書に目を通して置かないといけないもんですから、エレエが定期的にこうして文書を持って来てくれてるんですよね。

◇◇

 そんな感じで、今日の仕事を終えた僕は、夕飯の時、みんなに聞いてみました。
「ルシクコンベって知ってる?」
 寮で生活しているシャルンエッセンス達もいますので、誰か1人くらいは知ってるだろうと思ったんですけど……意外にもシャルンエッセンスも含めて誰もこの名前を知らないそうなんです。
「まさかウンジョウ街のことじゃありませんわよねぇ……」
 シャルンエッセンスは首をかしげながらそう言いました。
「え? 何、そのウンジョウ街って?」
「はい、ブラコンベの北にですね、頭を雲の上にだしてるたか~い山があるんですわ。その天辺付近に街があるんですけど、そこの街のことをウンジョウ街って言っていたのですわ……あいにく、私も行ったことはございませんのですが……」
 さすがにそれは違うだろうなと思いながらも、そんなとこに街があるっていうのも少し興味が沸きますね。
 どんな人が住んでて、どんな感じの街なんだろうとか……

 その後、この辺りの事に詳しいブリリアンにも聞いて見たのですが、
「さて……そのような名前の街は知りませんねぇ……ウンジョウ街ではないのですよね?」
 と、ブリリアンもシャルンエッセンスと同じ街の名前を口にしたんですよね。
 なんか、このウンジョウ街、別な意味で気になるんですけどね……

◇◇

 で、お風呂に入りながら僕はそのルシクコンベの事をパラナミオとムツキ少女バージョンにお話していきました。

 あ、最近のムツキはですね、僕と一緒にお風呂に入りたいらしくて、お風呂の時間に魔力を使用出来るように調節しているみたいなんですよね。
 そこまでして一緒にお風呂に入ろうとしてくれる娘がいるってのも、なんか親冥利に尽きるわけですよ。

 で、そんな2人はですね、ルシクコンベの事を聞くとぱぁっと顔を輝かせました。
「パパ、パラナミオも行ってみたいです!」
「ムツキも行きたいにゃしぃ!」
 2人はそう言いながら左右から僕に抱きついてきました。
「そっか、明日は休みだし皆で一緒に行って見るのもいかもね」
 僕がそう言うと、
「やった~!」
「にしし~!」
 2人は満面に笑みを浮かべながらさらに僕に抱きついて来ました、はい。

 で、この後、いつものようにですね、リョータとアルトが参戦し、最後にスアがやってきて、家族皆でお風呂タイムを満喫したタクラ家です、はい。

◇◇

 翌朝……
 僕はエレエに連れられて街のはずれにあります広場へ移動していきました。
 で、そこにたどりついた僕は目を丸くしました。

 そこにはですね……大きな籠があります。
 で、その籠の上部には火炎バーナーみたいなのがありまして……で、その上にはでっかい風船みたいなのが膨らんでいます。

 もうおわかりですよね……

 そこにあったのって、どこからどうみても気球なんですよ。
「このつまみがですね、魔法火力の調節機能になっていますです」
 そう言いながら、エレエは僕にこの気球の操縦方法を教えてくれています。
 ちなみに、この気球ですけど、この世界ではポルーナと言うそうです。
 エレエの説明を聞きながら僕は思わず苦笑してですね
「これ、まるで雲の上にあるっていうウンジョウ街ってとこにでも行くみたいでね」
 そう言ったんですけど、するとエレエは僕に向かってニッコリ微笑みました。
「あら、店長さんご存じだったんですね。ルシクコンベは以前はウンジョウ街って名前だったんですです」
「え?」
「最近、辺境都市連合に加盟したので、ルシクコンベって名前になったですです」
 そう言ってニッコリ笑うエレエなんですけど……ちょっと待ってください……

 ってことはあれですか?

 僕達タクラ家は、このポルーナにのって雲の上にある街へ向かうってことですか?

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