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ドラゴン

 ドラゴン。それは往々にして最強の生物と呼ばれる存在である。世界によっては、神に近しいとも比肩するとも呼ばれるような存在で、つまりは容量が非常に多い存在だということだ。
 そんな存在が世界から流出すると、高確率でハードゥスに到着するだろう。だが、そもそもドラゴンが存在する世界自体が多くはない。それは当然、容量が多いので簡単に創ることができないという事情がある。なので、今までドラゴンがハードゥスに漂着することはなかったというわけだ。
 だが何事にも絶対は存在しないとでも言うかのように、とうとうハードゥスにもそのドラゴンが流れ着いた。今までの中でも面倒さでは上位に来る存在だけに、ネメシスとエイビスはれいにそのことを報告する。
 その報告を受けたれいは、早速何処に配置しようかと考える。というのも、ドラゴンは空を飛ぶのだ。それも鳥の魔物とは比べ物にならないほどに長距離を。
 もっとも、それと同時に縄張り意識がとても強いので、巣を作るとそこを中心とした一定の距離しか飛ばなくなるのだが。
 ただ、やはり強い存在なので、周辺の環境にも配慮しなければならない。いきなりどこぞの町にでも配置すれば、それだけで即座にその町は滅びるだろう。
 現状のハードゥスで、れいと管理補佐、それにラオーネ達以外でドラゴンに対抗できそうな存在はそう多くはない。れいの話し相手である魔木は問題ないとしても、後は魔物の頂点辺りの一部ぐらいか。人だと国家規模で団結すればいけるかもしれないが、今はまだ成長が足りていない。
 しかし、危機を煽る存在としてはうってつけかもしれないので、人里から離れ過ぎても駄目かもしれない。理想は、縄張りの端が人里から見える位置といったところだろうか。ドラゴンの存在さえ認知してくれればそれだけで役割としては十分だろう。ドラゴンが存在する世界から流れ着いた住民もある程度は流れ着いていたはずであるし、語り部はそちらに任せれば十分事足りる。
 そういった要素を加味しながら、ドラゴンの配置場所を選定していく。ドラゴンの巣に関しては、れい達が選んだ場所に作らせればいいだけ。
 そういった諸々を加味して、候補を幾つか絞る。餌についても考えなければいけないので、魔物の数がそれなりに居なければいけない。
「………………人の楽園だと少々餌が少なそうですね」
 今後の発展のためにも、人の楽園に脅威を配置するというのもいいかと思ったが、その場合は餌の問題が出てくる。人の楽園では、魔物の数が他よりも少なめなのだ。なので、もしもドラゴンを配置するのならば、魔物の数も増やさなければ、あっという間に人が食い尽くされかねない。
「………………もしもそこに配置するのであれば、魔物の数を増やす必要が出てくる。ならば、追加する魔物は少しぐらい質を上げてもいいかもしれませんね。あくまでもそこに配置するならばの話ですが」
 餌の面だけをみれば、図体が大きくて被食者側の数が多い魔物の楽園に配置するという手段もあるが、それでは人の発展は望めない。
「であれば、迷宮大陸ではどうでしょうか?」
 エイビスの発言に、れいは視線を向けて先を促す。
「少し前に迷宮大陸の方では、迷宮産の魔物の数を増やすことに成功しましたので、今でしたらドラゴンの餌としては丁度いい数が揃っています。でなければ、少し多いぐらいでして」
「………………確かに、あそこであれば人も住んでいますね。迷宮からの産出品をそのまま使用している場合がほとんどでしたから、少しぐらい工夫させるきっかけがあってもいいかもしれませんね」
 エイビスの案を吟味したれいは、問題はなさそうだと判断する。人が居て、十分な餌がある。餌の質もいいし、大陸も広いのでドラゴンの活動範囲としては十分。後は巣を造るのに適した高い山でも配置してあげれば完璧だろう。
 報告に来てそのまま会議に参加したネメシスとエイビスに確認を取った後、れいは早速迷宮大陸の中央付近に、名物となるであろうほどの立派な山を配置した。人里は大陸の端の方に在るので問題ないし、位置的に大陸中央というのは見栄えもよかった。
 その後にネメシスとエイビスに報告と会議の参加の褒賞として、魔木を通した褒賞用の果実を一つずつ渡し、エイビスには良い案を出した褒美として、もう一つ追加で渡しておく。ついでにその実についての説明もしておいた。前回ネメシスとエイビスにはオリジナルを食べさせているので、その違いについてだ。
 説明を終えた後、ドラゴンに関してはれいが設置しておくことを告げて解散させる。二人が普段の仕事に戻ったところで、れいは直ぐに迷宮大陸に移動した。
 迷宮大陸に配置したばかりの立派な山に到着したれいは、早速ドラゴンを漂着させる。
 強大な力を秘めたドラゴンだが、漂着させた直後は、突然の事態に困惑したような様子をみせた。そんなドラゴンに慣れた様子でれいが説明していく。
 流石は最強の生物と呼ばれるだけあるのか、ドラゴンは即座にれいとの彼我の差を見抜き、最初から従順だった。
 れいは説明を終えて、最後に山に巣を造るように命令した後、その場を去る。人については何も言わなかったが、それは積極的に襲うようなら注意すればいいだろうという考えから。
 なにはともあれ、こうしてハードゥスにもドラゴンという大きな存在が追加されたのだった。

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