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2話 俺は生きるためにやるだけのことをやってみようと思った。

 景色はぐるぐると回って、変わっていった。

 森の中の開けた場所に出た。

「小林さん申し訳ない。女神があんなので」

「ダレンさんが謝ることじゃないですよ」

 ダレンさんはピカピカのハゲ頭を下げて、謝ってきた。

 太陽が反射して眩しい。

「やめてください、本当に(まぶしいので)」

 そういえば、これからどうするんだろうか。

 たくさん時間が経ったように感じたけど、太陽はまだ上の方にいる。 

 ここに、病院が建つのかな。

「女神様とは長いんですか?」

 ダレンさんはいい人そうなので、話題を振ってみた。

「高校が一緒です」

「高校? 神様にも高校があるんですか」

 何だか、急に人間っぽい単語が出てきたからびっくりした。

「いろいろな世界があるんですよ。神として生まれても、初めから立派な神じゃないんです。小学校を出て、中学校を出て高校を出て、ようやく仕事を任されるんです」

「神様って、学校出るんですね。大学とかはないんですか?」

「大学? その上、ということですか。そういうのはないですね」

 高卒が最高らしい。 

「学校はないですが、その先は上級神になります」

「上級神?」

「神様ポイントを膨大な量貯めれば、試用期間で一つの世界の管理者を任されます」

 ああ、お金を払う形のお試し採用か。

「それで問題なければ、上級神になれて、自分の世界の作成権と管理権が認められます」

 作成権……神様っぽい。 

「実績が認められると、階級が上がっていくらしいです。階級のことは下っ端なのでよくわからないですけどね」

「え? 女神様はどうして、管理者なんですか?」

「ドロシー様のお父上が神様として階級の高い方でして」

 階級が高いの?

 高いと子供も偉くなっちゃう?

 もといた世界と同じ?

「親が偉いと階級が高くなっちゃうんですか?」

「いえ、そういうわけじゃないです」

 じゃあ、何で同級生なのに女神の方が偉くなってしまったんだろう?

「高校を出た時のお祝いに、父親が世界管理権の試用期間が受けられるようなポイントを神様協会に払い込んだそうです」

「金の力……。結局、神様もお金次第なんですね」

 神の世界にも汚いものがあるのだと思った。

「お金……ああ、神様ポイントも通貨ですからね。そういう言い方もできるのか」

 そういえば、女神ドロシーも神様ポイントがないって言ってたなあ。

「女神様は、俺に何か与えたりするのがもったいないと思ったんですかね~」

「どう……なんでしょうね」

 ダレンさんは答えたくなさそうだ。

 よくわからないけれど、ダレンさんはドロシーから厄介事を全部押し付けられた……。

 ドロシーにとって、俺は厄介事なんだろうか。

 何だか、気持ちが沈む。

「死んでほしいと思ってるんですかね」

「まあ……えっと……その……え~」

 そんなことを話しているうちに、後ろの方でボワンと煙が起こった。

 きっと、病院ができたんだろう。

 ……これ、本当に病院?

 四角い、ほんとに真四角な箱があるだけ。

 大きさは2メートルくらい。

 立方体だから、2立法メートル?

 入口はどこ?

「ダレンさん?」

「なるほど……これなら、神様ポイントかからないな」

「ダレンさん……?」

 何だか色々なことを理解した様子のダレンさん。

 俺には意味がわからなくて仕方がない。

「これはですね、病院には違いないです。違いないですけど……。小林さんはモンスターと戦わないと中に入れません」

「どういうことですか?」

 モンスターと戦うの……俺が?

「この建物は、病院の卵みたいなものです」

「卵?」

 病院なのに卵とか、益々意味がわからない。

「建物の横に操作盤があるんですよ。そこのボタンを操作して倒したモンスターを吸収させます」

「へえ……吸収」

 吸収させて……この卵が成長するのか。

「モンスターってね、神様がこの世界に生きる存在が成長するように創ったと言われているんです」

 成長のためか、神様ってそういうこと考えるんだ。

「でも、それは建前で、……本当はただ眺めているとつまらないからだそうです」

「神様って、暇人なんですね」

 暇つぶしのためのモンスター。

 そして、暇つぶしのためのモンスター以外の存在。

 生き物なんて、神様にとっては娯楽らしい。

「まあ、腐るほど時間がありますからね」

 時間がありすぎると、暇だから作っちゃおう、みたいな変な考えになるのか。

「モンスターを倒し続けることが、生き物にとって生きるのに必要なことで、同時に神様を楽しませているんです」

「神様って……尊敬できないかもしれません」

 まるで、俺らをオモチャみたいに扱っているところが何とも狂っている気がする。

「でも、そんな時に神様のそういった考えが気に入らない悪魔がいました」

「悪魔?」

 何だ? 何だか昔話テイストの語り口だ。

「まあ……悪魔ですからね、真面目な悪魔です」

「昔話ですか?」

 ダレンさんは俺の言葉を聞き流すように、語り続ける。

「その悪魔はモンスターを倒す事で、逆に神様への冒涜へつなげられたらどうか、と考えました」

「何の話ですか?」

 聞き流されたので、もう一度聞いてみる。

「その末に創り出したのが、この〈病院の卵〉です」

 病院の卵が創られる目的の話なのか。

「医学が神様への冒涜……」

 なるほど、血液を洗浄して身体に入れたり、心臓の弁を機械で置き換えたり……。

 確かに冒涜だ。

「病院の卵って悪魔が作ったなら、高そうですけど。安いんですか……、意外ですね」

「この世界の人間には操作が難しいでしょうし、スライムをはじめに吸収させないと入り口も開きません」

 スライムは入口を開く鍵なのか。

「そして、この病院が治療をできるようにするために、モンスターの死体がたくさん必要と……」

「めんどくさい設定なんですね」

 要らないものだから、安いんだ。

「それに、この世界には回復魔法というものがありまして、大体の怪我は治ってしまいます」

「病気よりも傷のほうが需要は多そうですね。疫病もありそうだけど」

 医学は発達しない……そういうことか。

「薬はありますよ。簡単な薬学ならね。でも、良い薬というのは魔力の込められた薬です」

 魔力の込められた薬……どんなんだろう。

「まさにそれは医学ではなくて、魔法が発展しているという証拠なんです」

 ダレンさんは自分に酔いしれているのか、話が長い。

「この〈病院の卵〉のことを、多くの神様は信仰する人々に、よくないものだと説明したから、近づく人はあまりいませんでした」

 まあ、当然の行動だ。

 広まったらいいことがないものね。

「他の悪魔族もなんとか利用しようとしましたが、見た目が怪しすぎるのと、扱いがめんどくさいもので……」

 それは、うまくいかないな。

「だから、神界のゴミ捨て場に長い間、放置されてます」

「ゴミ捨て場から持ってきたんだ……。舐めてますね」

 ゴミ捨て場から持ってきたという事実が、俺を馬鹿にしている気がした。

「異世界人1人に対して100万ポイントが神様協会から渡されますから、スキルで消費してから死なれるよりも、初めから渡さずに亡くなってもらったほうが、美味しいかもしれないですね」

「だったら、初めから介入しなくてもいいのでは?」

 初めから見捨てるんだったら、俺と会ってくれなくてもいい。

「申請義務があるんですよ、何人転移してきたかって」

「誤魔化せないようになっているのか……」

 いろいろ決まりがあるらしい。

「それで、転移してきた人数1人頭の経費の支給が100万ポイント」

 100万か……、俺の価値が100万ってことなんだな。

「申請されている転移者が活躍したり、満足できるような生涯を過ごせると500万ポイントから1000万ポイントくらい戻ってきます」

「価値がわからないので、よくわかりません……」

 でも、ボロ儲けっぽい印象は受けた。

「功績にもなるんですよ。試用期間が短くなったりしますし、試用期間満了後の給料が若干よくなってたりします」

 給料? 神様って労働者みたいだなあ。

「世界作成権を得た後に貰えるポイントも、若干増えるらしいです」

 上級神になった時の給料ってことか。

 もし、女神ドロシーが試用期間の間に俺が活躍したら女神に報奨金が出るんだな。

 まあ、俺に限って言えばそういうことはなさそうだけど……。

「功績が欲しい神様なんかは自腹の神様ポイントを使ってまで、良いものを与えようとするらしいですよ」

 功績を金を出して買う訳だな。

「……強奪の魔眼とか、無限の魔力とか、強い武器とかを与えるには支給ポイントでは足りません」

「大した活躍もせずに、亡くなるのはペナルティは特に何もないと……そういうことですか」

「残念ながら」

 悲しい……悲しすぎる。

 何だか、このまま死ぬのは悔しくなってきた。

「……なんとかして、生きたいですね。冒険者になって女神を驚かせてやりたい気分です」

「それでも、結果的にはドロシー様を喜ばせるだけなんですけど」

 ダレンさんは痛いトコを突いてくる。

「でも、考え方によっては優しいじゃないですか。一応、何か与えてはくれたんですから」

 俺は生きるためにやるだけのことをやってみようと思った。

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