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振り向けばドンタコスゥコがいる(本編とはまったく関係ありません) その1

 そろそろやってくるんじゃないかな~、なんて思いながらコンビニおもてなし本店でレジ作業をしていた僕なんですが……来ました来ました。
 お昼過ぎにですね、本店の入り口のガラスの向こうに見慣れた荷馬車隊がガラガラ音を立てながら、本店の隣にありますおもてなし酒場の荷馬車置き場目指して進んで行きました。
 毎月月末にやってくるドンタコスゥコ商会の皆さんです。

「やぁやぁやぁ店長さん、来ましたですよ」
 荷馬車が入り口前を通り過ぎると、ほどなくしてドンタコスゥコ商会の会長ドンタコスゥコが店内に入ってきました。

 このドンタコスゥコはですね、ドンタコスゥコ商会を率いて毎月月末頃にコンビニおもてなしを訪れては、コンビニおもてなしの商品を購入していくんです。
 で、半月かけてコンビニおもてなしがありますガタコンベのはるか西方のバトコンベって町まで行商に行ってるんですよ。
 で、その途中の町や村、集落であれこれ商売しながらバトコンベとガタコンベを往復しつつ、そのちょうど中間点にありますナカンコンベでしばし休息しているそうなんです。
 というのも、このナカンコンベにドンタコスゥコ商会の本店があるからだそうなんです。

「やぁ、ドンタコスゥコ、久しぶり」
「はい、お久しぶりですねぇ。今月もしっかり仕入をさせていただきますねぇ」
 ドンタコスゥコは僕の差し出した手を笑顔で握り返しました。
 小柄な女性のドンタコスゥコですけど、僕より若干若いそうなんですよね。
 で、そんな若さでこんな隊商を率いて商会を切り盛りしているのですから、結構なやり手なんだろうなっていうのが容易に想像出来るわけです。

 が

 僕と笑顔で握手しているドンタコスゥコ。
 そんなドンタコスゥコの笑顔がみるみる強ばっていきました。
 で、僕が肩越しに振り返りますと、そこには転移ドアをくぐってやって来たばかりらしいファラさんの姿がありました。

 ファラさんは、いつもはガタコンベのはる~か南方にありますティーケー海岸にありますおもてなし商会の担当をしています。
 で、おもてなし商会っていうのはですね、コンビニおもてなしが商品を卸売りしたり商品を仕入れたりする業務を一手に引き受けてくれている部門なんですよね。
 経理の仕事を長くやっていただけあって、ファラさんの交渉能力と、帳簿管理能力はすごいものがあります。
 少しでも高く卸売り、少しでも安く仕入れすることをモットーとしているファラさん。
 一方のドンタコスゥコはその逆で、少しでも安く、コンビニおもてなしの商品を仕入れようとしているわけです。

 そのため、この2人は毎回仕入値を巡って壮絶な駆け引きを展開している、いわば永遠のライバルとでもいいましょうか……
「あら店長さん、それはおかしいですわよ」
「え?」
「だってそうじゃないですか。ライバルというのは実力が伯仲している者同士に使う言葉でしょう? でぇすぅがぁこの小娘ごとき、私の足元にも及んでいませんしぃ」
 ファラさん、そう言うと、眼鏡をクイッと押し上げてクスクス笑い始めました。

 ……うん、確かにそうなんですよね……
 何しろファラさんVSドンタコスゥコの値段交渉……今まで全てファラさんが完勝をおさめ続けているんですよ。

 で、その事がわかっているだけに、クスクス笑っているファラさんに何も言い返せないドンタコスゥコ。
 その体をワナワナ震わせながら
「そ、それは昨日までの私の話ですねぇ。今日の私を舐めた事を後悔させてやりますからねぇ」
 そう言うと、その口元に笑みを浮かべているんですが……どうみてもその口、ガタガタ震えているんですよ。

 まさに、蛇に睨まれた蛙といいますか、ラミアのラテスさんに睨まれた蛙人のヤルメキスといいますか……

 で、ここで、一度咳払いをしたドンタコスゥコはですね、
「ま、まぁそれはそれとして、明日勝敗を付けることにして……今日は一緒に飲み明かそうではありませんかねぇ?」
 そう、ファラさんに言いました。
 するとファラさんはニッコリ笑いました。
「あら、そういうお誘いも大歓迎ですわよ」
 で、2人はですね、さっきまで睨み合っていたのもどこへやら……仲良く肩を組みながらおもてなし商会の方へ向かって歩いていきました。

 ガタコンベに到着したドンタコスゥコ商会のみんなは、いつも初日はおもてなし酒場で酒をかっくらって、温泉風呂で長旅の疲れを癒やすのが常なんです。

 で、いつものように酒盛りに行こうとしていたドンタコスゥコなんですが、
「あ、そうそう」
 そう言いながら僕のところに戻ってくると、僕の耳元に口を寄せました。
「あのですね店長さん、折り入ってお願いがあるのですよ」
「お願い?」
「今夜の飲み会にですねぇ、コンビニおもてなしの関係者さんで独身の男性さんを何人か同席させていただきたいんですよねぇ」
 それを聞いた僕は思わず苦笑しました。
 おそらくあれでしょう……前回来た時にですね、ヤルメキスが結婚するというのを聞いてそれに触発された女性の方が多かったもんですから、恐らくその流れでのお願いなんでしょう。
 って、いうか、ドンタコスゥコ商会のみなさんって、全員女性なうえに、ほとんど毎日行商していますからね、出会いが極端に少ないらしんですよね。
 ……あれ、でも待てよ
「そう言えば、あの男性の用心棒の人、いましたよね? 冒険者の。あの人は呼ばないんですか?」

 そうなんです。
 このドンタコスゥコ商会って全員が女性のため、道中襲われそうになることが多いもんですから冒険者の方を用心棒として雇っているんです。
 で、その1人が男性なんですけど……

 僕の言葉を聞いたドンタコスゥコはですね、苦笑しながら店の外を指さしました。
「いくら男でも、あれではねぇ」
 そう言うドンタコスゥコの指先には、どうみてもミッ●マン●ローブないかつい女装姿をした男が立っています。

 ……いえね……彼はですね、
「女性ばかりの商隊の護衛につくには自分も女装すべき」
 と、自分から言い出して、自発的に女装して護衛任務についているそうなんですよ。
 ですが、それが似合っているかといえば……それは、ドンタコスゥコの言葉ですべてお察しください。

 で、まぁ、そんなわけでドンタコスゥコに頼まれたんですけど……さて困ったぞ。
 いえね、
 コンビニおもてなしの支店や関係店で未婚男性と言うと……よく考えて見ると、案外いないんですよ。
 僕は既婚です。
 ルア工房の男性だと、パラランサくんとオデン6世さんですけど、パラランサくんはヤルメキスの旦那ですし、オデン6世さんはルアの旦那です。
 ブラコンベのガラス職人ペリクドさんも所帯持ちですし……

 で、あれこれ考えていくとですね、

 本店のテンテンコウ♂
 4号店の燕人のツメバ 
 
 この2人しかいないんですよ。
 スアの使い魔の森から呼んでもいいのならシオンガンタを始め何人か該当者がいそうなんですけど、スアの使い魔の森のみんなは、人族相手の飲みニケーションはあまり好きじゃないみたいなんですよね。
 スアが同席している飲み会なら別なんですけど……

 というわけで、テンテンコウ♂とツメバに打診してみたところ、
「……まぁ、店長がいうのなら……」と、テンテンコウ♂
「あ、はい、別にいいですよ」と、ツメバ
 2人とも快諾してくれました。

 で、まぁ、この2人に参加してもらうとしましても、ドンタコスゥコ商会の女性陣は総勢で20名近くいますので、それを2人だけで相手してもらうのも……まぁ、それはそれでいいかもしれませんけどね、ちょっとあれかなぁ、と思ったわけです。
 というわけで、頭数ってことで僕も顔を出さないといけないだろうなぁ、と思ったんですよ。
 すると、そんなことを考えていた僕の肩を、後方から叩く手がありました。
「パパ、僕も手伝いしますよ」
 僕の後方でそう言ったのは、僕よりやや小柄な男の子でした。
 痩せマッチョで、かなりのイケメンな男の子なんですけど……あの、君、誰?

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