バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

まぁ、想定内の答えだ。

「おいおい、無茶だろ」
「無理っすよ!」

そして、極めて冷静に
「やる必要がありますか?クリスティアン殿下」

三者三様の反応だが、彼らが言ってることは、ただ一つ「無理難題を言うな」だ。

問題発言の主は努めてにこやかな顔をすると
「無茶でも、無理でも不必要でもない、俺はやる」

キッパリと言い切る第二王子にその場にいた3人は押し黙った。

そして、あからさまに「お前、なんとかしろ」という念を込めてお互いにチラチラ見合う。

とうとう2人の無言の圧力に折れて、立場上、アレックスのスケジュール管理をする主席秘書官のテッド・カーティスが口を開いた。

「最近、クロードに細かいオフ時間を作るよう言われてましたが、これが原因ですか?」

その質問にアレックスはブス垂れた顔をすると「これってなんだよ?」と質問返しする。

「恋愛脳ですよ」

あからさまに言われて、一瞬アレックスは押し黙った。

テッドは極めて冷静で優秀な秘書官だ。アレックスより15歳年上で、学生時代お目付役だったこともあり、アレックスは頭が上がらないこともある。

彼は、優秀さを強調するフレームのない眼鏡を押し上げると嫌味のような溜息を吐き、続けた。

「頭がお花畑の我らが王子は、意中の方とデートに行かれるのに、メディアを巻きたいと仰る。それなのに、、、あなたが立てたプランは滅茶苦茶で支離滅裂です」

うんうん、と他の2人が同意する。

アレックスはさらにブス垂れた。ここは負けるわけには行かないのだ。

「俺はそんな難しいことは言ってない、できるさ」

このままではラチがあかない、平行線だ。

補佐官のクロードはアレックスの気持ちもわかる分、致し方なしに話をまとめることにした。

「アレックス殿下、前半は悪くないっすよ。あと最後もね」

「どういうことだ」

「今年の映画祭、初日のプレミアムショーは、運のいいことにヘンドリック様所有のハミルトン・フィルム・シアターが会場じゃないっすか」

「そうそう」

ここでやっとアレックスの友人のヘンドリックが合いの手を入れる。

「だからヘンドリックも呼んだんだ、協力してもらわないといけないからな」

「えぇと、まずミス・ジョーンズを車で迎えに行って、ザ・グレースのサロンに行ってお着替え」

「そうだ」

「で、お着替え後、車でフィルム・シアターに行って、裏口からこっそり入り・・・」

「裏口はメディアは入れないし、通路はトンネルのようにドアまで遮断するから誰にも見られないから大丈夫だ」

ヘンドリックが補足する。それにクロードは感謝を述べると

「で、そのままVIPルームに移動して映画を観るっと。VIPルームも個室ですし窓はマジックですから、外からは見えないっすね」

「あぁ、うちのシアターのVIPルームは鉄壁だ」

ここでもクロードはニッコリ。
テッドは何も言わない。
アレックスは相変わらずブス垂れ中。

「で、鑑賞後、裏口からこっそり出て、私邸に戻ってディナー、ってことっすよね」

「お前、いちいち、でぇ、でぇ、うるせーな。そうだ、それのどこが問題なんだ」

噛み付くように答えたアレックスに、今度はクロードがドンっ!とテーブルを拳骨で叩くと吠えるように叫んだ。

「大ありっすよ!!あんたねぇ」

もはや敬称無しのあんた呼びになっている。

「徒歩で私邸に向かうなんて、馬鹿すぎます」
そう、テッドが引き継いだ。



ハミルトン・フィルム・シアターは王宮にほど近い中心地にある。
そして、当然ながらヘルストン市内で一番の目抜き通りに位置する。

観光スポットや娯楽施設、ショッピングモール、老舗百貨店、オートクチュールを扱うファションブランドの有名どころが立ち並ぶエリアだ。

特に映画祭の間は、この目抜き通りが歩行者天国になり、たくさんの露店が出店する。
マーケットさながらの賑やかな人通りに様変わりするのだ。


アレックスは王宮内の居室の他に、この目抜き通りに私邸を構えている。

ハミルトン・フィルム・シアターからは同じ通り沿いにまっすぐ、徒歩で10分ほどの距離。

あろうことか、アレックスは映画鑑賞後、私邸までを真理と一緒に徒歩でぶらぶらしながら帰るとのたもうたのだ。

冷静にテッドが言葉をついた
「おまけに、なるべくメディアは巻くか、写真を撮らせるな、と。無茶苦茶過ぎます」


「どんだけ護衛が必要っすか」
「いいだろ、俺の私費でやるんだから」

はぁ、とさらに呆れたようにため息が聞こえてくる。

「メディアを全て抑えるのは無理です、撮られます。スマートフォン全盛の昨今、今はメディアだけじゃなく、通りすがりの人間だって撮りますよ、殿下も散々撮られまくってますよね」

過去の女性と撮られたことを暗にテッドが匂わせるとアレックスはさらに不貞腐れる。

「車でいいでしょ、車で。一番安全じゃないっすか!何が不満なんすか?!」

「映画祭の余韻に浸りながら2人で散歩したいんだ!」

それの何が悪いとアレックスが、開き直って椅子にふんぞりかえると、クロードがイラつきながら頭をワシワシ掻きむしる。

「車ん中で、余韻に浸るなり、イチャイチャするなりしたらいいっしょ!」

そんな部下を冷ややかな横目で見ながらアレックスはなおも言い募った。

「王族なんて、クソ喰らえだ。普通の国民なら出来る、彼女を迎えに行って、デートして、手を繋いで歩いて、送ることさえ出来ない。たかだか10分、どうして歩いちゃいけないんだ」

王子なんてやめてやる、アレックスの悪態で、
とうとう部屋がブリザード級に凍りついた。

王子と王室府の職員の戦いに、様子見だったヘンドリックがやっと口を開いた。
アレックスの強情さは学生時代から知っている。

こうなったら一歩も引かないのだ。

「わかった、アレックス。半分、妥協しろ。うちのシアターから、目抜き通りに出られる裏道がある。細い路地だ。例年、この路地は業者用に使うために、うちが発行した通行証を持った業者しか入れないよう封鎖してる。この路地使えば、出店のない人通りの減ったところに出られる。そこからお前の私邸まで、400メートルもない」

「ヘンドリック様〜」

クロードが思いがけない提案にホロっと喜ぶ。

「ありがとうございます、ヘンドリック様」

テッドは仕方がないというように、嘆息する。

アレックスは、それまで不貞腐れてた表情を一変させた。

「本当か!?ヘンドリック!!」

友人の喜色満面の笑顔にヘンドリックは緩く笑んだ。

「ああ、とにかく封鎖する距離を長くしとくから。路地とは言ってもライトアップはしてるから雰囲気も悪くない。それで満足しろ、残りの400メートルはどうにかできるんだろ?」

「感謝する、ヘンドリック!」

握手しながら、これまでの付き合いでベストスリーに入る勢いの第二王子の笑顔にさらに苦笑した。

本当は喉元まで、出かかっていた。
その意中の女性は【ハロルド】だろうと。
お前が探していた【命の恩人】だろうと。

でも、この場でアレックスからは何も説明はなかった。
彼は【恋人にしたい女性】としか言わなかったのだ。

これは、まだ言う時期ではない、そして問うタイミングでもないということくらいは、ヘンドリックも理解している。

だから、将来の大きいリターン、、、【ハロルド】の写真展を期待して協力することにしたのだ。

アレックスは変なところが真面目で下心ありきで利用したり、されることを好まないが、ヘンドリックは実業家だ。
目的のためなら、できることはやるし恩も売る。
グレート・ドルトン王国の第二王子に貸し一なんて、気分がいいじゃないか。

ただ今日は、今まで見たことのないアレックスに驚いたというのが協力する気になった一番の理由かもしれない。

昔から来るもの拒まず、去る者追わず、そして誰とでも一度きりの遊びしかしない。

そんな女達との逢瀬をパパラッチされても、一切気にせず、メデイアから「恋人ですか?」と聞かれても、皮肉めいた笑顔しか見せなかったこの男がだ・・・

王族に目が眩んで擦り寄る女性を嫌悪し、遊び相手にしかしなかったこの王子が、あろうことか、本気と思しき恋をしている。

恐ろしいほど大切にしてることが分かる。

なら、応援もしたいし、これだけ友人を夢中にさせる女性にひどく興味をそそられるのも当然だ。

映画祭の初日より、王子の想い人に会えることが楽しみでならない。

だからヘンドリックはささやかな要求はした。

「当日、紹介だけはしてくれよ」

友人の要求にアレックスは一瞬、躊躇うように瞳を揺らしたが、協力してくれる友人に断れないことは理解していたのだろう。

「ああ」その答えにヘンドリックは満足そうに笑い、後の2人はこの話しに折り合いがついたことに、ホッとしたように息を吐いた。

しおり