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生徒会のイケメン

 「この魔道具はね、対魔王用に作られたもの。魔王の身体を痺れるさせる能力を持ってるわ。
 それで………コイツの性能を試すにはそれなりの相手が必要かなと思って、Lv.9000越えのあんたに手伝ってもらおうと考えたのよ」
 
 銀の銃を構えながら、話すアスカ。
 顔が見えないので、より一層怖さが増していた。
 ………あれ? リコリスの話によれば、裏世界に魔王はいるんじゃなかったか?
 
 「この世界に魔王がいないのに、なんでそんなものを作る必要があるんだよ」
 「いない? 何を言っているの? 魔王はいるわ」
 
 「おーい。リコリス、聞こえているだろ? 魔王はこの世界にいないんじゃなかったのかー」
 
 リコリスはマイクを手に取り、こちらに目を向ける。
 
 『バカ言わないでちょーだい。こっちには魔王(兄)がいるのよー』
 
 魔王(兄)っているのかよ。
 
 「それでも前より平和になったって教えられたぞ?」
 「ここは前線じゃなくなったもの。そりゃあ、ここで暮らす平和ボケのやつらには、世界が平和に見えるはずよ。
 かなり昔に、ここでも魔王軍と激戦が繰り広げられていたわ。今は比較的魔王軍は弱くなって、前線が南の方に移動したけど、まだ南では激戦が続いているわ」

 「だから、魔道具製作が得意なお前が研究所に所属して、その銃みたいなものを作ってるのか」
 「ええ。だって、あたしは、魔王と戦う(・・・・・)ためにいるんだもの。対魔王用の魔道具を作るのは当たり前のことでしょ」
 
 研究所に所属しているアスカとって、打倒魔王が目標なのだろうか。
 じゃあ、なんでこの学園にいるんだよ。研究所にいた方がいいのじゃないのかよ。
 と聞こうとした時、アスカは、
 
 「長話はここまで。ちゃっちゃと、やるわよ!」
 
 と声を上げ、ギラリと光る銀の銃を構え直す。

 「いや待て。レベルが9000以上あるとはいえ、心の準備が………」
 「うるさい。ていやっ!」
 
 軽い声とともに、アスカは、引き金を引いた。
 そうして、俺は——————————
 
 「あ゛ああああぁぁぁぁぁ————」

 もがき、叫んでいるのである。
 自由に動けない俺は、歯を食いしばり、必置に痛みに耐えていた。

 全身が痺れる、バカみたいに痺れる!
 そんな時、呑気にしている2人の声が耳に入ってきた。
 
 『ラクリア、ネルを見てよ。レベルが9000越えしている人間には見えない、無様な姿だわ。フフフ』
 『FOOOOOOOOO!』
 
 後でアスカに銃を借りて、アイツらにも絶対同じ目に合わせてやろう。
 痛み耐えながら、呑気な2人を見ていると、
 
 『ラクリア、この監視カメラ見て』
 
 そんな声がマイクを通して聞こえてきた。
 
 『この部屋、監視カメラなんてあるんだねぇ』
 『ほら、みて。なんか研究室のドアの前に誰か立ってる』
 『どれどれ………あ、これは生徒会の人だYO』

 『生徒会? 研究室に来たってことは、アスカになんか用があるってこと?』
 『そうだと思うねぇ』
 『なら、連絡しないと。アスカ! お客さんが来てる!』

 「お客さん?」
 
 痛くて叫んでいる俺をじっと観察していた、サイコアスカは、リコリスの方を見上げる。
 
 『生徒会の人、みたいよ!』
 「生徒会………あぁ、あれを取りに来たのね」

 「Lv.9000のネルにも痺れさせることが分かったし、足止めとかに利用できることも分かった。よし、とりあえず実験終了!」
 「………」
 「多分、一時動けないだろうから、ゆっくりしていていいわ」
 
 そう言って、階段の方に歩いていくアスカ。その時、ちらっとこちらをいちいち見て、去っていった。
 ベルトによる固定が外れたとはいえ、全身に痺れがあった俺は動けないまま。

 こういう時、どの魔法を使えばいいか知らない。ていうか、その類の魔法がテストに出ることはそうそうなかったような。

 それを分かってやったな、アスカ(アイツ)
 ………このやろう。
 
 
 
 ★★★★★★★★

 
 
 「いつもありがとう、アスカさん」
 
 やっと歩ける状態まで戻り、1階の研究室に向かうと、美少年がいた。
 彼は俺と同じくらいの身長だが、すらっとした体つき。艶やかな金の髪を持つ、誰が見てもイケメンと言える、姿をしている。
 
 コイツが、リコリスが言っていた生徒会だろうか?
 
 正直言って、俺は生徒会は嫌いだ。大大大嫌いだ。

 1年前、生徒会のやつらにも、俺は邪魔者扱いされた。
 元々生徒会は、絶対に落ちこぼれの生徒を許さない連中が多かったのだが、落ちこぼれながら、高等部にまで上がってきていた俺を目の敵にしていた。

 そのおかげもあって、ほぼ俺の敵であった生徒会のメンツは大体覚えていたのだが、こんなやつがいた覚えはない。新しく入った1年生だろうか?

 完全防護服から着替えていたアスカは、机の上にあった段ボール箱を取ると、それを生徒会のイケメンに渡した。
 
 「いいえ。これ、あたしのビジネスでもあるわけだし。罠2つでよかったわね」
 「はい、大丈夫です」
 「罠?」
 
 リコリスは首を傾げる。
 
 「僕は週末にレベル上げのために、ちょっと強めの魔物を退治しに行こうと思っていまして。アスカさんが作る罠はよいので、こうしていつもお世話になっているんです」

 「へぇ、1人でやるのか?」
 「はい。でも、魔物と言ってもそんなに強くない物なんです。Lv.9000のモナー君なら3秒なくても、倒せてしまうはずですよ」

 俺のことを知っているのか………まぁ、最近のことで知っててもおかしくないけどさ。
 生徒会に対する警戒は、未だ消えていない。

 それよりも、俺をはめた妹メミが入っていると最近知って、より一層警戒心が高まった。
 訝し気な目を向けていると、生徒会のイケメンやろうはハッとする。
 
 「あ、失礼したしました。僕は1年C組のリク・キーユといいます。よろしくお願いいたします」
 
 美少年リクがこちらに右手を伸ばす。俺も右手を伸ばし、握手を交わした。
 
 「ご丁寧にどうも………俺はネル・モナー。よろしく」
 
 彼の手には妙に力が入っていて、少し痛かった。

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