チェックメイト
俺は嫌々ながら、昨日と同じ運動場でちびっ子ツインテールと向き合っていた。
なんで2日連チャンで、バトルをしなきゃならないんだ………。
アスカの勝負の申し出を、最初は断った俺だが、その後も何度も何度もアスカは、「勝負をしよう!」とガキのようにしつこく言ってきた。
すると、隣で見ていたリコリスが、
「これで勝ったら、2度とこの子は、ネルが怖くて勝負しようなんて言ってこないでしょうね」
と、わざとなのか、無意識なのか知らないが、そう呟いてきた。
まぁ、俺も1回で済むのなら、平穏な学園生活が守れるのなら、と思い、仕方なく勝負を受けた。
そうして、俺は、第2運動場でアスカと向き合っているってわけだ。
数メートル離れたところで、準備をするアスカは、言ってくる。
「ルールは昨日と同じでいいでしょ? なんでもありだから」
「お前、昨日の見ていたのか………」
昨日のマナト先輩との勝負は、たくさんのギャラリーがいた。その中に金髪ツインテールがいなくもなかったような。
「ええ。丁度暇だったから、見させてもらったわ! 中々面白かったわよ。まぁ、裸にさせて降参させるのは少し邪道だと思ったけど………」
「あれは自分の意思でやってない!」
俺の魔法ではあるけど!
「でも、今回はなんでもあり。物理的に動きを封じるのもよし、精神的に攻撃するのもよし、社会的に追い詰めるのもよし! とにかくなんでもありよ!」
アスカは自信たっぷりに杖を構える。
昨日の見ていたってことは、俺のレベルを知ってんだよな。
制御がまともにできないといえども、俺のレベルが高く、強いことに変わりない。それに、1年前の俺は知識でやってきていた。
アスカは飛び級してきたって言っていたから、頭はいいはず。勝率も分かってるはずだ。
なのに、なぜあんなに自信たっぷりなのか………。
「リコリスさん! スタートの合図をしてもらえる!?」
「分かったわ! 任せてちょうだい!」
リコリスは、アスカのお願いにニコニコ笑顔で答える。
リコリスの方を見ると、やつは俺と目を合わせるなり、「制御ポンコツやろう、精々頑張りなさい!」と口パクで言ってきた。
さてはコイツ、俺が負けるところを見たいんだな?
「始めっ!」
リコリスの合図とともに一直線に駆け出すアスカ。
俺は、その場を動かず、腰を低くし、構える。
アスカの魔法次第で、使う魔法は変わってくるな………。
「ハッ! 動かないのは、あたしに怖じ気づいているからなのっ!? あたしが怖くなった!? 昔のことを思い出した!?」
そう叫ぶアスカ。走りながら、スイっと横に杖を振る。
「シイクネッビア!」
アスカが唱えたのは、自分の近辺に濃霧を生み出す魔法。
景色が白へと変わり、アスカの姿を見失った。
やみくもに攻撃すると、運動場を壊しかねない俺は、この霧をどうにかしないと、攻撃をしたくてもできない。
俺は、杖を振り、風を生み出す。かなり強めの風を作ったので、すぐに濃霧は消えていった。
………あれ?
どこかに身を潜めたと思ったアスカは、数メートル離れたところに立っていた。
一体何がしたかったんだよ。もしかして、俺はおちょくられてんのか?
まぁ、いいや。とっととお遊びを終わらせよう。
「アイスオンダ!」
俺が唱えた魔法は、氷魔法。氷の波がアスカの方へ進み、地面を覆っていく。
逃げる素振りも見せず、余裕の笑みを浮かべているアスカの足を捕えた。
「もう動けないだろ? 炎でやったって無駄だからな。お前の負けだ」
「それはどうかしら?」
その声が背後から聞こえた。
「え?」
ゆっくりと振り向く。
そこには、巨大バズーカを構えた、もう1人のアスカがいた。
彼女と俺の距離は、1メートルあるかないかぐらい。
「チェックメイトね、落ちこぼれネル」
背後に警戒はしていたものの、アスカらしき気配は一切なかった。しかし、やつは俺の後ろにいる。
それにアスカが2人いる………。
「なんで………」
俺の困惑顔を見たアスカは、小悪魔のごとくニヤリと笑っていた。
「フフフ………あたしは何でもありと言ったはず。まともに戦ったって、Lv.9000のあんたに勝てるはずもない。
それで考えたのよ。いかに自分の存在が気づかれないように、あんたに近づくか。あんたが相手していたのは、ダミーよ」
俺が相手していたアスカは、人形だったのか。気づかなかった。
確認のため、ちらりと後ろを見る。すると、人形のアスカが俺の魔法に耐えられなくなり、壊れていっていた。
思い返せば、アスカはものづくりが得意だった。簡単な魔道具ならその日に作ってしまう、そんなやつだった。
————俺は、アスカに何度やられたと思ってんだ。
気づかれないよう、杖を背中の後ろに隠し、小さく振る。
すると、アスカの足元の地面から、紫の触手がにょきっと生えた。
さぁ、1年前の嫌がらせをお返ししようか。