バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

角消去の代償?

 「(つの)かぁ………」

 久しぶり自分の部屋に戻った俺は、リコリスとともにお茶をしていた。
 1年たっても、部屋の様子は変わらず、全てがそのままだった。
 窓の外は、オレンジ色の空が広がっている。

 たった1日で色々あった。そして、長かった。まぁ、時間を動かしていたせいだが
 部屋には俺以外いないので、リコリスは、深くかぶっていたフードを取っていた。彼女は、悪魔とは思えない優雅な姿で、お茶を飲んでいた。

 俺は、リコリスの頭にちょこんと生えた角を見つめる。
 フードを被ったままでは、いられないだろうな………。

 「なぁ、そのお前の角どうにかできないのか?」
 「これ? 私にはどうにもできないわ。変身魔法ならどうにかできるかもしれないけど、私、変身魔法なんて使えないもの」
 「へぇ………」

 変身魔法か。
 そういや、学園通っているとき、一生懸命勉強したな。使ったことはなかったけど。
 しょぼい魔法しか使えなかった俺ももちろん、一度も使ったことない。ていうか、使えなかった。
 でも、変身魔法自体は、そこまで難しくなかったような気がする。

 「変身魔法を使えたらいいんだよな?」
 「………まさか、自分の魔法を使うんじゃないでしょうね?」

 リコリスは俺の考えを察したのか、訝し気な目でこちらを見る。
 きっとさっきのことを思い浮かべているのだろう。
 俺の魔法は、表世界にきてから、散々だった。

 山は2個消すわ、遠い過去や未来に移動するわで、1回で成功した例がない。
 ………でも、相手はリコリス。最悪失敗しても、角が長くなるだけだろう。
 誰かがリコリスの姿を見たら、ハロウィンに向けて悪魔の仮装を考えているんです、とか適当なことを言えばいい。

 「試しにやってみるのもいいだろ? ダメだったら、何度もやり直せばいんだし」

 リコリスは、うーんと唸りながら、熟考した末、ハァと息をついた。

 「………分かったわよ。私には、何もできないし、角を生やしたままだと、自由に動けないし。どうぞやってちょうだい」

 俺は、杖を手に取り、意識を集中させる。そして、杖先をリコリスの頭に向けた。

 「アティチュードカンビャメント!」

 魔法をかけると、リコリスの体が、白く光りだす。
 数秒して、光が収まると、確かにリコリスの角は変化していた。
 角はきれいさっぱり消えていた。
 消えていたのだが………。

 「………プグっ」
 「なんで笑うの?」

 リコリスは、おっさんになっていた。黒髪ロングのガタイのいい、おっさんに。
 幸い、服も一緒に形態を変えており、裸のおっさんを見るのは避けれた。
 自分の巨大な手を見て、キョトンとするリコリス。そして、彼女は黙ったまま、部屋の隅に置いていた姿鏡の方に向かい、自分の姿を目にする。

 「え?」

 すっとぼけた低いおっさんの声が部屋に響く。
 声変わりまでしているから、なおさら笑いが………。

 「角だけを変えるって言ったじゃない! なんで全身を変えてんのよっ!」
 「い、いや、俺はそんなつもりは………プっ」
 「何笑ってんのよ! 絶対楽しんでるんでしょっ! ふざけないでよっ!」

 内心俺は、おっさんリコリスを見て、愉快だった。大笑いはしないものの、声を出さず笑っていた。
 悪魔女が、筋肉ムキムキおっさんに変わるとか………制御できないけど俺の魔法、センスがあるな。
 リコリスは、自分の顔をペタペタと触り、叫んだ。
 
 「しかも、おっさんだなんて! よりによって、この私がおっさんに変わるなんてっ! あ゛あぁぁぁぁぁ——————!!」

 パニックを起こし始めたおっさんリコリスは、部屋を飛び出す。
 ちょ、待て。その姿のまま出ると色々まずい。
 何も知らないやつにとって、今のリコリスはただの女装姿のおっさん。ヤバいぞ。

 リコリスを追いかけ、俺も廊下へと出る。
 遠くに行ったと思ったら、そこに立ち止まったリコリスがいた。

 「おい! その姿を他の人に見られたらどうするんだよ」
 「そのご忠告は手遅れね………」

 俺は、恐る恐るリコリスの視線を追う。リコリスの向かいには、1人の人が立っていた。

 「お兄様………」

 そこにいたのは、学園から戻ってきた妹、メミだった。

しおり