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更地

 メミたちと再会した次の日の朝。
 俺はいつも通り、焼きたてのドラゴン肉を食べていると、リコリスに言われた。

 「ね、いつ行くの?」
 「行くって?」
 「表世界に決まってるじゃない。………それでいつ行くの」
 「うーん………」

 今日行くしても、急で何も準備できてないし。なにより俺の心の準備ができてないし。
 俺は熟考した後、軽い声で、

 「もうちょっと後」

 と答えた。
 次の日。

 「ねぇ~、いつ行くのぉ~」

 1週間後。

 「………ねぇ、いつ行くの」

 そして、今日も、

 「ねぇ! 表世界(あっち)にいつ行くのぉっ! あの人間が来て1週間以上経ったんだけど!」

 俺は、ドガ―ンドガ―ンと気持ちのいい爆発魔法を放ちながら、隣で訴えるリコリスをちらりと横目で見る。

 「もうちょっと後でもいいじゃないか………意外とこの世界しっくり来ているし。離れることを考えたら、ちょっと寂しさが湧いてきたんだよ」
 「何度、『もうちょっと後』って言ってるのよ! いつでもこっちは戻れるでしょっ! 私は早くあっちに行きたいの!」

 お前は、人間という名のおもちゃが欲しいだけだろ。

 「ていうか、普通寂しさを感じるのは、私でしょ! 1年過ごした程度で………この裏世界にわか」

 リコリスは、いつものようにプクーと頬を膨らませる。
 ………裏世界にわかってなんなんだよ。
 俺は、ハァと息をつき、爆発魔法を放っていた手を止める。

 「はいはい。分かりましたよ、明日、行きますか」
 「明日ね! ぜぇっーたい明日ね!」

 リコリスは、そう訴えながら、俺の顔に向かって、指先を向けてくる。
 俺は渋々表世界(あっち)に行くことを決断した。

 出発の日。
 準備を終えた俺たちは、家の前に出ていた。

 「フフフ………いよいよね!」

 いつもの姿とは違い、黒のフードコートをまとうリコリス。彼女は喜びの笑みを浮かべ、ルンルン気分。
 俺は、いつもと変わらぬ服装で、リュックをかるっていた。
 魔法は、前にメミたちで試したし、問題なくあっちに行けるだろう。

 「行くぞ!」
 「ええ! やってちょうだい!」

 俺は杖を構え、そして、意識を集中させる。

 「オラクルテレポート!」

 唱えると、地面にできたのは緑に光る、魔法陣。その魔法陣から放たれる光に、体が包み込まれ、視界が真っ白になっていく。

 数秒後、大通りらしき音が聞こえてきた。
 ————あっちの世界はどうなっているだろうか。変わりない景色が広がっているだろうか。
 そんなことを考えながら、ゆっくりと目を開ける。

 「FOOOOOOOO!!」
 「………」

 俺の目の前にヤバいやつ。
 サングラスをつけ、こちらにチェケラする女。
 俺は、予定した通り、あの大通りで立っていた。隣には、ちゃんとリコリスもいる。

 着いた場所では、ビートが鳴り響き、ストリートダンサーか何か知らないが、チェケラ女と同じようなチャラチャラとした服を着て、踊っていた。観客も何人か集まっている。
 俺とリコリスは、チェケラの女に静かな目で見た。

 「Oh! 赤い瞳のにいちゃん、目に前に、急に、現れた! どうしたんだよ!」
 「………なんでもないっす。気にしないでください」
 「OK! にいちゃん、分かったYO!」

 コイツとは関わっちゃなんねー、と俺の心のセンサーが警報を鳴らす。
 リコリスとともにすぐさまそこを去って、路地へと走り、逃げた。

 「さっきのダンサーをお前のおもちゃにしたら、どうだ?」

 あの人、俺より数倍面白いと思う。
 俺がそう言うと、リコリスは横に首を振った。

 「………お断りする。嫌な予感しかしないもの」

 リコリスの最後の言葉には、同感だった。

 そうして、大通りから外れ、路地道を走っていた俺たちは、森に来ていた。
 偶然、森に入ったわけではなく、そこですることがあるため、来ていた。

 では、なぜ、森に来たのか。
 それは、この世界では俺はどのくらい成長したか、この目で確かめたいから。

 裏世界でメミは立てなかった。立っていた俺は、きっとかなり強いはず。
 だって、Lv.9000だぜ? 自分で言うのもなんだが、クソ強いに決まってる。
 俺は自分の力にウキウキしながら、森の中を歩いていた。

 「ここらへんでいいでしょう? 試しに魔法を使ってみなさいよ」
 「ああ」

 ちなみに山を選んだのは、人が少なそうだったから。もし俺たちの魔法が誰かに当たって、怪我でもさせたら、大ごとになる。ただえさえ、人間をおもちゃにしたがっている身元不明の変人がいる。面倒事はごめんだ。

 木々の間から見える山の頂上。俺は、そこへ杖先を向ける。
 ちょっと山を崩せればいいかな。それなら、土砂崩れが起きたと思ってくれるだろうし。

 「エスプロジオーネ!」

 ドガ―ン! と巨大な音を立て、向かいの山に土ぼこりが沸く。
 風は少し合ったので、土ぼこりが消えていき、山の姿はすぐに目にできた。

 「え?」

 俺は口をぱかーん。隣にいるリコリスも口をぱかーん。
 向かいにあった、高い山がなくなり、更地になっていた。
 こ、これは強いなんてもんじゃないぞ………。

 「あ、あんた、何してんのよ! ちょっとは加減しなさいよ!」

 リコリスは俺の肩を掴み、前後に揺らす。

 「お、俺も山を少し削るくらいでいいかなと思ってやったんだよ! まさか、こうなるとは………」
 「………今度は、隣の山に加減(・・)をして、やってみなさいよ」
 「分かった。もう一度やってみる」

 もう少し弱める。たったそれだけ。簡単なことだ。
 俺はもう一度杖を構え、そして、山の方に杖先を向けた。

 「エスプロジオーネ!」

 加減を意識しても結果は同じ。もう1つ山が消えてしまった。

 「何してんのよー! 同じことをしたって意味ないでしょ!?」
 「い、いや、これでも加減はしたんだ。お前も使ってみろ、多分同じようなことになるから」
 「わかったわよ」

 リコリスのレベルは、出会った頃とほぼ変わらず、Lv.7897。俺とのレベルは1000ぐらいあるが、たいして変わらないだろう。

 黒髪を揺らすリコリスは、俺が作ってしまった更地に氷の彫刻を作る。
 しかし、彼女が作った彫刻はいたって普通の大きさだった。2メートルの高さしかない。

 「な、なんでだ?」
 「あんたがやっぱり加減できていなんじゃないの? 私はこの通りできたわよ」

 リコリスは、「あんた、加減下手くそなのねぇ。私はできたのよ」と言わんばかりのドヤ顔で、自分の彫刻に指をさす。ちょっとムカついたが、何も言わないでやった。

 俺は、作ってしまった更地を見つめる。
 確かに、以前俺は強い力を望んでいた。技術試験でまともな点数を取りたいと思っていた。
 でも、今の俺(これ)だと試験で犠牲者が出るじゃないか………。

 「アハハ………」

 更地を目の前に、自分の顔が青くなっていくのを感じた。

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