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強制退学

 魔法学園ゼルコバ。この学園は、筆記試験と技術試験の合計点で成績が出される。
 しかし、その合計点が110点に2回届かなかった者は、強制退学。
 俺は、その強制退学させられている真っ最中だった。

 玄関ホールにはたくさんのギャラリー。クスクスとあざ笑う声が耳に入る。
 大勢の注目を集めながら、俺は先生に土下座をしていた。

 「ネル・V・モナー、お前を強制退学とする」
 「そ、そんな先生………待ってくださいよ」
 
 必死に何度も土下座をし、頼み込むが、先生は横に首を振るだけ。いつになく先生は威圧的だった。
 俺はたった1点を落としただけ。それだけなのに。
 
 「合計点が満たさなかったものは、例外なく強制退学だ」
 「1点落としただけじゃないですか」
 「技術試験で点数を補えればよかっただろう………でも、お前、技術上げる気なかったじゃないか」
 
 決してそんなことはない。俺は必死に技術の勉強も、練習もしていた。
 しかし、俺の努力はなかなか反映されず、技術は上がる気配がなかった。
 術者のレベルと魔法レベルがあっていなければ、高度の魔法は使えない。

 みんながレベルをどんどん上げていく中、俺はLv.12で止まったまま。小等部の生徒と同レベルだ。
 当然、Lv.12の術者が扱えるしょぼい魔法を使っても、高等部の技術試験で高得点を取れるはずがない。だから、ペーパーテストで、俺は常に満点を取っていたんだ。
 先生の背後にいた少女が、トランク片手に近づいてくる。横から風が吹き、彼女の紺色髪を揺らした。
 
 「持ってきましたわ、お兄様」
 「メミ………お前」
 
 メミ・C・モナー。
 俺の血のつながらない妹。それもそう。俺は養子で、メミは実子。モナー家の次期当主。学年トップの成績を誇るハイスペック妹だった。
 そんな彼女は、トランクを目の前に置くと、俺の耳元に口を近づけ、呟いた。
 
 「お兄様、先日私が渡したお水に何が入っていたか知っていますか? 私特製の『特定記憶抹消薬』が入っていたんですよ? お気づきになりませんでした?」
 「なにっ!?」

 メミは、小悪魔のようにフフと笑う。
 
 「筆記試験は半分ぐらい点数を落とされると思いましたが、前回に引き続き1点だけ落とすとは、さすがお兄様。でも、惜しかったですね、お兄様」
 
 言い終えると、彼女は耳元から口を遠ざけ、ニコリと笑う。しかし、黄色い瞳は決して笑っていなかった。
 衝撃の事実に何も言うことができない。
 メミがそんなことを………なんで。いつも俺に優しく接してくれていたじゃないか。
 
 「さようなら、お兄様」
 
 妹は、別れの言葉を告げると、紺色髪を揺らし自室に戻っていく。彼女の背中からは兄との別れの寂しさなど一切見えなかった。
 2階から高みの見物をしている1人の男。ブロンドの髪のやつは、嬉しそうな笑みをこぼしていた。
 
 「やっとさようならか、ネル」
 「………ハンス」
 
 俺をやたらといじめてきた、ハンス。
 やつは俺と目を合わすなり、フッと鼻で笑う。
 
 「お前みたいな落ちこぼれがこのエリート校にいたこと自体おかしいんだよ」
 
 ハンスは自分の取り巻きに「なぁ?」と同意を求める。取り巻きたちもバカにしたような目で俺を見ていた。
 
 「メミもお荷物のお前がいなくなって、楽になったことだろうよ。さぁ、お前は念願の退学だ。分かったなら、とっとと学園を出て行くんだな」
 
 ハンスはそう言って、メミを追いかけて行くように、奥へと姿を消していく。
 なんなんだよ………。
 そうして、学園を追い出された俺は、1つのトランクを持って、街中を歩いていた。

 実家に帰ってもいい。でも、親になんて言われるのやら。きっと適当な学校に入らされるんだろけど、きっと呆れるだろうな。下手すれば、見捨てられるかも。
 はぁと溜息をつきながら、大通りを歩いていると、背後から声を掛けられた。

 「ねぇ、そこの人」

 俺はゆっくり振り向くと、立っていたのはフードを被った人物。声から判断するに女性だった。
 
 「そこの人、これ、入りませんか」
 
 女性は、こちらに何かを差し出してきた。
 彼女の手の上には、古びた布でグルグル巻きにされている物。
 ………なにこれ、この不気味な感じ。怪しさ満載なんだが。
 俺は当然のごとく断った。
 
 「いいえ、いらないです。お金そんなに持ってないので、他を当たってください」
 「いえ、貰ってくださいな」
 「でも………」
 
 フードを深くかぶる女性は、必死に俺にその物を渡してくる。
 近づいてくるので、女性の瞳が見えた。エメラルドの瞳がキラリと光る。
 その瞳に動揺した俺は、物を受け取ってしまった。
 
 女性は俺によく分からぬもの渡すと、すぐにその場を去った。
 怪しいもの………だよな?
 好奇心が生まれてしまった俺は、その布を取っていく。
 
 「なんだこれ?」
 
 布を取り、見えたのは緑色の宝石。形は整えられていないものの、かなり大きな宝石だった。
 俺は布を捨て、手に取る。そして、まじまじと観察。
 結構きれいだし、高価そうだな。

 すると、その瞬間、俺の脳内でパリンとガラスが割れるような音がした。
 そして、宝石が輝き始め、緑の光が広がっていく。
 
 「な、なんだ?」
 
 視界がぼやけていく。前が見えない。
 なんだよ、俺。強制退学くらって、街で倒れるとか。
 頑張って、立とうとするが、足がふらつく。

 不幸なことばっかだな、俺の人生。
 そうして、俺は意識を失った。

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