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上から観た箱庭の世界

 ハードゥス初の戦争が勃発した。それを観ていたれいは、良いことだとそれを評した。
 攻めた方が攻められる方に内通者を用意していたりと、周到に事前準備をしていたようで、結果としては戦争というよりも、一方的な蹂躙劇ではあったが、それでもハードゥス初の戦争であるのは間違いない。
 れいが戦争を良いと評したのは、戦争というのが発展を加速させるからだ。もっとも、戦争は劇薬であるので調整は必要だが。
 それでも、戦争が起きるという可能性が提示されただけでも十分に役に立つとれいは思っている。何処かの世界で、争いは何も生まないなどという冗談が言われているようだが、競争というのは中々侮れない効果があり、そして適度な戦争というのは発展に欠かせないものだ。なにせ、国を護るために国家が総力を挙げて開発を行うのだから、それで発展しないわけがない。
 惜しむらくは、戦争関連の発達が顕著になるという部分ではあるが、そこから転用されて民間向けに発明が行われるというのも珍しくないので問題はないだろう。それに戦い関連が発展すれば、地下迷宮の攻略が捗る可能性が高い。
 なので最良の状態は、戦争を意識こそすれ、そこまで発展しないギリギリのラインを維持しつつ、発展のためにガンガン地下迷宮を攻略していく状態だろう。戦争は起きてしまえば損失が多くなってしまうので、やはり劇薬ではある。それでもある程度は起きてくれないと緊張感が保てないので、その辺りの調節には苦労しそうだ。合間に平和な期間も設けなければ、軍用を民間に転用する流れは加速しないだろうし。
 もっとも、その辺りにれいが関与することはないだろう。れいから見れば、人の盛衰など興味の範囲外。減ったならばまた補充すればいいだけとしか考えていないし、失敗だと判断すればやり直せばいいとも考えている。れいにとっては数千程度は誤差の範囲だし、言ってしまえばハードゥスとは、れいが運営している養殖場でしかないのだから。
 故に、発展どうこうを横に措いても、新しい変化というのは喜ばしいことなのだ。それを楽しみながら、今後の動向を注視する。れいは色々とやることが多いので暇というわけではないが、それでも娯楽の一つにはなるだろう。
 他のところだと、最初の町の在る大陸では、その国が大きいうえに強すぎて戦争にすら発展しない。というよりも、多少交渉めいた話し合いが行われるだけで、直ぐに降ってしまうのだからしょうがない。
 魔物の楽園は年中縄張り争いが起きてはいるも、それでもある程度は勢力が固まってきていた。現状では広い大陸で勢力を築いているのは五種類の魔物。互いに勢力圏が離れているので衝突は少ないが、その辺りも時間の問題だろう。年中争っているおかげで、その大陸の魔物はどれも精強であった。
 地下迷宮産の魔物増殖計画は上手くいっているが、短命なので直ぐに死ぬ。地下迷宮内同様に死体が残らないのも多いので、大地があまり汚れないのはいいのだが。
 そういった具合で、各大陸共に発展や進展を見せている。その中で一番退屈なのは、ステータスとやらで管理している大陸か。管理される側だと楽しめるのかもしれないが、管理する側としてはつまらないものであった。
 意外だったのは、アーロトントの管理する大陸だろうか。アーロトントの要望で様々な種族を住まわせているが、それを上手く調和させていて、混血も進んでいる。
 文明の発展具合はそこそこだが、養殖という点で見ればかなり数を増やしていた。そして、何故かこちらでもれいを最高神とした宗教が確立されていた。れいはその大陸をアーロトントに任せてからは一度も訪れていないので、どう考えてもアーロトントが広めたのだろう。
 中にはれいを唯一神として崇めさせているのも在ったほど。それだけはっきりとれいとの差を認識したということなのかもしれないが、れいとしては些かも興味が無かった。
 一通り見て回ったれいは、ハードゥスも順調に発展しているものだと感想を抱く。はじまりは創造主の押し付けだったけれど、今ではそれも受け入れている。
 ただ問題が在るとすれば、漂着物の量が一向に減らないことだろうか。
 ストックもするようになったし、拡張も問題はないのだが、れいはそこに無駄が多いのが気になったのだった。人でも魔物でも、未だに海を横断するような者は現れていない。

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