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侵略

 侵略。それは武力を持って他国を侵すこと。さて、今回は国と言うか世界なのだが、何を考えたのかハードゥスへと攻撃を仕掛けた管理者が居た。
 ハードゥスは元々空白地帯であった世界の片隅でれいが創造した世界なので、外の世界がどれだけ膨脹しようとも、ハードゥスの周囲には他の世界は存在しない。
 最も近くの世界までもかなりの距離で、創造主が創造している世界と世界の間もかなり空いているのだが、ハードゥスの場合はそれの十倍以上も近くの世界と距離が開いていた。なので、わざわざ交流場までの転移には今でもれいが力を貸しているほど。
 それほどまでに離れた場所に在るというのに、ハードゥスから最も近い場所の管理者は、何故か攻撃を仕掛けてきたのだ。若い管理者同士であれば、管理者同士の戦いというのも珍しくは無いのだが、それでもある程度古い管理者になるとそれはグッと減る。
 ハードゥスが在る場所近辺の管理者ともなれば、いにしえの管理者とも呼べるぐらいには古い管理者達で、その辺りまでくれば別の管理者に噛みつくなど今までなかったのだが、どうも思慮分別を失ったようであった。もしかしたら管理者として存在する限界にでも達して壊れたのだろうか? などとれいが考えたほど。
 とりあえずその管理者は速攻潰したのでハードゥスに被害は一切無いのだが、何故いきなり遠い場所にあるはずのハードゥスに襲い掛かったのか気になったれいは、力を全て奪って文字通り生きているだけにした管理者を調べてみることにした。
 調べるだけなら苦も無く簡単に調べられるので、れいは直ぐに原因を突き止めてみせる。それは、
「………………創造主の影響ですか」
 真相はそういうことだった。といっても、創造主がれいもしくはハードゥスを襲えと命令したわけではなく、どうやら以前から行っていた管理者間の格差是正とでもいえばいいのか、そういう無駄なことをしている副産物のようなモノだったらしい。
 この管理者が狂ったのは全くの偶然で、ハードゥスを襲ったのは、この管理者が正気の頃にれいに憧れを抱いていたかららしかった。どうやらそれが妙な感じに歪んでしまったらしい。
 とりあえず、それなら正気に戻してやればいいかと考えたれいは、さっさと元に戻す。れいにとってはあまりにも容易いこと。
 そうして正気に戻った管理者だが、記憶の方はしっかりとれいが残していたようで、絶望した表情のまま、壊れたようにれいへと何度も何度も謝罪していた。
 それで気が済むのならと、しばらくそれを聞いていたれいだったが、次第に鬱陶しくなってきたので、今回のことは水に流すとして、強制的にその管理者が管理している世界にお引き取りいただいた。
 そういった一連の出来事があった後、れいは他の分身体が集めて管理している全ての世界の情報を調べ、似たような案件を幾つか見つける。
「………………面倒なことをしますね」
 厄介ごとしか生み出さないのかと、れいは創造主の評価を一気に下げる。元々たいして高くなかったので、今では既に最底辺に近い。
 創造主がただ創造するだけの存在であれば、れいも関わろうとは思っていなかった。創造する存在というのは、外の世界にとっても必要な存在であったから。
 しかし、時が経ち過ぎたからか、余計なことに目がいくようになってしまった。おそらく色々見過ぎたのだろう。創造主は成長しないが学習はする。そして、学習は何もいいことばかりではない。学習の範囲には、余計なことも含まれてしまう。
 今回はその結果なのだろう。れいはどうしたものかと思案する。手っ取り早いのは、創造主を排除して代わりを用意することだが、その代わりはれいが創造しなければならない。外の世界が創造の役割を持たせて生み出した存在とは別の存在を代役として配置していいものか。れいはそれを悩んでしまう。
 次善策として、創造主を教育するというのもあるが、急ぎなのでこの場合はほとんど洗脳に近くなる。
「………………それは別に問題ないですね」
 そう思ったが、それ以前にそれを分身体でしかない自分が考えることでもないかと思い直す。その辺りは本体に報告して、後は任せればいいだけだろう。
「………………情報は既に共有されていますが、一応報告しておきますか」
 そういうわけで、れいは本体に一連の報告を行う。それが終わると、本体が後を引き継ぐという形になった。その後、本体から返還していた力が戻された。
 名目上は報酬という扱いらしいが、不要だからと返還していたのを、その持ち主に返して報酬というのもいかがなものかと思わなくもない。
 もっとも、わざわざ報告しなくとも本体は今回のことも含めて色々と把握していただろうから、これは報酬というよりも不要だから返されたと思った方がいいのだろう。
 本体の方も力の増加に苦労しているようなので、おそらくその考えで間違いはないと思われた。
 れいはどうしたものかと考え、とりあえずハードゥスの拡張を行い、維持に必要な力が増すように画策しておく。それでも一時しのぎにしかならないので、他の方法を何か考えておかなければならないだろう。
 そう思いつつ、少し残っていた後片付けを終えて、今回の件は終わりを迎えた。

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