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呉算。

峯岸が懐に何かを隠しながら細川に突進しかけたその時、視界の片隅から青い小さな物体が飛び出しむ峯岸の拳の前で四散した。
 と同時に細川が峯岸の懐に入り右足を峯岸の脛に架けひっくり返した。綺麗な大外刈りだった。

「畜生!、畜生!」叫ぶ峯岸。

そのまま寝技で峯岸を制圧する細川。高梨は彼をあまりパッとしない印象と感じていたがその時はさすが警察官だなと思う。

足下には足が取れバラバラになった青いワンピースを着た明日菜の姿。そして胴体に刺さった注射針。

「吉澤さん!!」

さよならも言えずに逝ってしまったか、とふと思った。遅かれ早かれ今日の昼過ぎには約束の72時間を迎えてしまう。

「危なく死ぬとこだったぜ。おおっと、俺に刺さった針は触るな、多分アコニチン、トリカブトの毒だ」

トリカブトの毒、アコニチンは神経毒で体内に入ると10分程度で心臓麻痺を起こして死に至ることで昔から有名で毒矢などに使われた。
 この毒にフグの毒であるテトラドキシンを混合するとテトラドキシンの薬効が消えるまでアコニチンの作用が止まり遅効性の毒薬となるのだ。

最初、峯岸は徐に気付くか気付かれないかわからない状態で毒を盛り、取り調べの最中に心筋梗塞を起こして死んだように見せかけ口封じを図ったんだろう。しかし我々が取調室に行くのが遅くなりテトラドキシンの効能が切れてしまったのが誤算だった。

「吉澤さん、そんなバラバラでも大丈夫なんですか?」

「どうやら俺の本体はこの子の頭の方みたいだ」

そういうと明日菜の頭が転がってきた。
人形とは言え、生首みたいでやはりちょっと怖い。

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