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漂着物の質

 漂着物の中にも質というものがある。
 この場合の質は、人を例えに出すと、それは善悪というわけではない。強いか弱いかというのも少し異なる。直結する部分もあるが、それよりも幅は広い。なにせこの場合の質というのは、文明度だから。
 当然のことながら、新しく誕生した世界よりも、長い年月を経た世界の方が発展している。これは当然のことで、余程管理者側が積極的に介入しない限りはそうそう埋まる事はない。
 しかし、管理者側の介入は制限されている。それは創造主の意思ではなく、管理者達の集まりで決まった事らしい。もっとも、その輪かられいは既に離れていたので、関係の無い話だが。
 ただ、そうなると新旧の世界でますます差が埋まらないので、ある程度は救済処置がなされているらしい。
 それはそれとして、そういうわけで、文明の成熟度というのは、その世界の成熟度と比例するとも言える。
 現在ハードゥスに流れ着くのは、主に最近消滅した新しい世界産のモノが多い。それはつまり、文明の発展があまり進んでいない漂着物が多いという事になる。
 そんな中で古い世界からの漂着物がくれば、それはいわゆる当たりという扱いになるのも自然な流れだろう。人であれば、一気に文明を推し進めてくれるかもしれない。
 しかし、そんな世界から漂着物が届くには、世界に開く穴に落ちなければならない。そのうえで漂着しなければいけないので、かなり数は少ない。新しい世界で確認されている消滅は、世界間での争いの少ない古い世界では非常に起きにくい。
 それでも、そろそろそういった質の良いモノが欲しい頃合いではある。ハードゥスの文明は大分進んだが、それも速度が緩やかになって久しい。地下迷宮だけでは起爆剤としては弱く、一時的に急速に発展はしたが下地が弱かったのか、その後の発展に上手く結びついてはくれなかった。
 やはり基礎と言えばいいか、その辺りがまだ弱いというのが痛いもので、地下迷宮から素材を回収しても、それを十分に活かせていないのが現状だった。故に、知識を持った人が欲しかったが、そう都合よくは流れ着いて来ない。今は誰かが閃いてくれるのを時間と共に待つしかない。
 そして、魔物の方も質の向上が欲しかった。こちらは人のように文明レベルでどうこうという存在ではないのだが、それでも長き時を経た種というのは、その分最適化されていて強くなっている事が多い。それに多芸であったり、もしくは一芸に秀でていたりと何かと優秀なのだ。
 れいが時折語らう魔木もその類いで、あれは結構古い世界から流れ着いている。漂着した当時から古い世界だったので、その分種として進化していた。
 そういった存在も欲しいが、望めば流れ着くわけでもないのでしょうがない。望めば流れ着くのであれば、海にも新しい何かが欲しいところなのだから。
 かといって、何処からか持ってくるわけにもいかない。絶対に必要というわけでもないのに創造するのは主義に反するので、そちらとしても却下。
 結局のところ、のんびりと待つしかなく。期待しないで手持ちでどうにかやりくりするしかないのだ。
 その辺りの運営に関しては、折角の勉強場所だと思い、れいは管理補佐達にも参加させている。無論、これに関しては無責任に丸投げはしていない。したいとは思っているが、それは将来的な話になるだろう。
 現在の漂着物を集めた一角は、国が一つと町や村が多数といったところ。国は益々発展していて、ハードゥスの文明をけん引しているのは間違いなくこの国だろう。
 とうとう他の町とも接触したようで、交流が始まっている。まだ領土や利権の問題が発生するほど安定もしていないので、生存のために協力体制を構築しているようだ。といっても、やはり国の方が力が強いので、将来的には国の方に取り込まれると容易に予想出来た。
 他の町は少しずつ足場を固めていっている状態なので、その辺りは国が遥かにリードしている。
 町といえば、町の中には地下迷宮から魔物を溢れさせて滅んだ町もあった。他の世界の知識を参考にして、町の政策として地下迷宮を攻略しないことにしたその町は、ハードゥスでは地下迷宮の成長がかなり速いということに気がついた時には手遅れで、町に近い地下迷宮からあふれ出した魔物達によってあっさりと滅んでしまった。
 まぁそのおかげで、今まで漂着してこなかったような魔物も大勢増えてくれたのだが。どうやら地下迷宮から溢れた魔物達は、時間の経過と共に外でも長期活動が可能な肉体を得て、通常の魔物と変わらない存在に成るらしい。ただし、繫殖能力に関しては機能している魔物はあまり多くはなさそうだったので、地下迷宮から大量に魔物が溢れたから、今後は爆発的に魔物が増える。というわけではないらしい。
 それに関しても今後の観察次第だが、最近になって、地下迷宮産の魔物は通常の魔物と比べて寿命が短いのではないかという疑いが浮上している。これもまた要観察ということだ。
 そういったことを踏まえて、地下迷宮の成長を抑制している力を緩めて、少し魔物を増やしてみるというのもいいかもしれないという案も出された。特に迷宮大陸は、迷宮と魔物の楽園にして、人を鍛える場にしてはどうかという案は一考の余地があった。
 勿論、人の生活圏はある程度は確保しておきたいが、将来何処かの大陸で人が覇者となった時に楽しめる地はあった方がいいだろう。海を渡れるかどうかは分からないが。
 大陸ごとのそういう特色を出してもいいだろうと、管理補佐の中にも考える者が居た。れいとしてもそう考えていたので、法則以外にも、そういった方面から考えるのもいいだろうと思った。
 そうした会議も行いつつ、細々と世界に調整を行っていく。そうやっていると、ふと思いついたのが。
「………………大陸ごとに管理者を設けて、それぞれに独自に管理させるというのも面白いかもしれませんね」
 それは正しく外の世界の再現となるのだが、管理する存在が違えばそこに特色も出てくるだろうというのはおかしな話ではないし、それこそ外の世界で証明されたことでもあった。
 なので、れいとしてはその方面も真面目に考えてみることにしたのだった。

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