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僅かな変化

 れいが離れている間にハードゥスに何かがあった。というようなことは勿論なく、れいはいつもの役割に戻っていく。
 結局ペットの補充は出来なかったが、過ぎたことはしょうがない。れいは気持ちを切り替え、外の世界に出る前に考えていたことについての思案を再開させる。
「………………複数の世界を内包する世界」
 それは、現状でも既にそうだと言えるのかもしれない。様々な世界から流れ着いた多種多様な漂着物を集めて構築した世界。それは確かに複数の世界を内包していると言えるだろう。しかし。
「………………それらも溶けて混じって一つになってしまえば、そういう世界となってしまう」
 自然などの一部を除き、漂着物とは、簡単に言えば文化や文明であろうか。ハードゥスは様々な文化・文明が入り混じり、その先にハードゥスという世界の文化・文明に昇華させる。そういう地だ。
 そこまでいけば、ハードゥスはハードゥスでしかなくなる。それは悪いことではないし、漂着物を受け入れている以上、次々と追加があるので、完全に一つにはならないだろう。
 もっとも、そこまでいくとそれらを受け入れる広い度量というのがハードゥスということになりそうだが。
 現在れいが考えているのは、そういった広い度量の文化・文明を一つの世界の中に複数設けようという発想だ。違いと言えば、そこで働く力。
 例えば、1という世界と2という世界があったとしよう。1の世界では特殊な力が存在しているが、2という世界にはそれが存在していない。
 そんな基礎部分が異なる世界に、同じ文化・文明を流し込んだらどうなるか。きっと1という世界は、その特殊な力を混ぜた文化・文明へと昇華させて、2という世界は、特殊な力が介在しない文化・文明へと昇華させることだろう。
 そうなると、最早その二つは別の文化・文明と言える。れいが考えているのは、それを世界ではなく大陸ごとに設定しようか、という話だった。
「………………大陸を跨ぐだけで異世界へ。考えは面白いと思いますが……どうなのでしょうか?」
 まず大前提として、それが実現可能なのかどうかだが、それに関しては問題なく実現可能。普通の管理者では不可能だが、れいであれば問題なく情報を処理出来る。
 ハードゥスにはまだ大陸を移動出来るほどの文明が発達してはいないが、それでも考えとしては面白いとれいは思う。ただ、今後大陸間で交流出来るまで発展したとしても、大陸間の交流に支障が起きそう案件ではあった。
 れいはどうしたものかと考える。現在では漂着物を集めた一角とペット区画がその根幹の違いというものだが、そもそもその二点を行き来するのはれいぐらいしか居ないので、参考にはならないだろう。
 このままハードゥスが育っても、各大陸ごとに違いが生じるのは普通だとは思うが、それだと地域差程度で、れいが考えるほどの違いではない。もっとも、あまりに法則を変えてしまうと、それはそれで文明の発展具合に歪みが生じそうだと考えたところで、れいは自身の思考に苦笑する。
「………………いつの間にやら随分とまた、感情に幅が出始めたものですね」
 今までも色々と感じてはいたが、それでも今ほど強く感じたことはなかった。その思考に気づいたれいは、自身の内面の成長を知る。ただ、喜んでいいのかは微妙なところであった。
 他の管理者は既にそれぐらいは獲得しているので、この場合はれいの成長がかなり遅かったということなのかもしれない。もっとも、れいの本体は別という可能性もあるが。
 とりあえず、一つの世界に様々な世界を内包させるという案は一旦保留することにした。これからもそれは流れ着いてくるかもしれないので、対策は何か考えなければならないが。

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