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珍しい漂着物

 れいが色々と王達に渡してから数ヵ月が過ぎていた。あれからより積極的に地下迷宮の攻略に乗り出した王は、将軍の配下達にれいから下賜された装備を配り、それらを一部隊として優先的に地下迷宮へと送り出していた。
 将軍の部隊は、主だった者がれいが降臨した場には居合わせていたので士気は非常に高く、今までの五割増しほどの速度で地下迷宮を攻略していく。
 その攻略速度を支えているのは、やはりれいが贈った装備であった。性能が非常に高いだけではなく、そもそもその域の性能を持つ装備は迷宮産しかなかったので数が少なく、そのうえそういった装備は発見した者達が使用していた。
 それに加えて、やはり将軍の授かった加護の存在が大きい。
 加護による力の変化に慣れるのに苦労はしたが、完全に自分のモノにしてしまえば、これほど頼もしい加護は無いと将軍は思っている。
 しかも、れいから下賜された武器であれば、力が増した将軍の力にも難なく耐えてくれたので、困ることなく地下迷宮の攻略を進められることが出来た。
 れいにとっても思惑通りで、今までよりも格段にダンジョンクリエーターの消費が増していた。問題は、やはり流れ着く数の方が多すぎることか。もう処理しきれないぐらいの数が在庫として溜まっているので、もしかしたら永遠にあの国周辺からは地下迷宮は無くならないかもしれない。
 別の場所の町周辺でも地下迷宮は増やしているが、そちらの方はかなり攻略速度が鈍い。政策として完全に攻略してしまうのを禁止にしている場所もあるので、そういった場所の地下迷宮も制限は解除している。
 最近というほどでもないが、判明したことなのだが、ハードゥスは力の流れの終着点なだけに、通り過ぎるだけの力も膨大に存在している。そのおかげなのか、ハードゥスでのダンジョンクリエーターは成長がおそろしく早かった。
 この辺りの調整をしているのがれいなのだが、攻略できるのに攻略する気がない場所では調整するつもりはないらしい。
 地下迷宮が周辺にどんどん増えているというのに、その情勢が理解出来ずに攻略を放棄するようなところは自力で頑張れという方針に決めたようだ。つまり、れいにして珍しく僅かにイラっとしたとでも言えばいいのか、ここらでダンジョンクリエーターが居た世界でスタンピードとか言われる迷宮氾濫の事例を経験させてもいいなと思ったわけだ。
 それはそれとして、れいはダンジョンクリエーターの消費が完全に追い付かなくなったので、開き直って世界にばらまいた地下迷宮を減らそうかと思い、新しい地下迷宮を設置するのではなく、既存の地下迷宮の配置を変える方向に舵を取る。
 ただ、地下迷宮大陸の地下迷宮は少し減らす程度にして、大陸の方は何かの用途に使えないだろうかと考えているようだが。
 それにしてもと、れいは思う。全体を管理しているから分かることだが、確実にハードゥス全体の強さが想定よりも上がっていた。その原因は、意外と簡単に発見できたが。
「………………概念と言いますか、摂理と言いますか、理法と言いますか、完全ではないとはいえ、そういったものまで流れ着くとは」
 世界が消滅したが故の結果なのだろうか。何故だかその世界を支配していた法則までもが流れ着いていたのだった。ごく一部だけとはいえ、面倒な代物であった。
 れいは流れ着いていたそれらを回収した後、漂着物の管理を任せていたネメシスとエイビスにそのことを告げて、今後は対策するように伝えておく。
 その後は、齟齬が出ないように回収した法則を紡いでいき、新しい法則に編み上げていく。不要な部分は分解して、足りない部分は補う。出来るだけ漂着物は活用するという方針なので、面倒だが無碍にも出来ない。
 ただし、この新しい法則が機能するのは漂着物を集めた一角のみ。その外側であるペット区画では、元々の法則が引き続き適応される。
「………………今後も流れ着くようであったならば、大陸ごとに法則を変えてもいいですね。疑似的な異世界をこの場所だけで再現するというのも面白い」
 完成した法則を一角に適応しつつ、れいはそんなことを思った。ハードゥスの外の世界は無限の世界を内包している、流石にその再現とまでは言わないが、それを少しだけ参考にしてみてもいいだろう。
 そうして色々と調整していると、やっと外の世界で新しい存在が生まれるのだった。

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