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ぶらり旅4

 物陰に移動してそこから一瞬で別の場所まで移動したれいは、そこで朝まで過ごしてから夜明け前に首都に戻った。
 人々の朝は早い。夜に灯す明かりは開発されているも、量産まではこぎ着けていないので、まだ一部にしか浸透していない。
 一般的に夜の明かりと言えば蝋燭か魔法の光だ。蝋燭は一本一本は安いが、夜を長く過ごすには本数が必要になってくる。そうなると、どうしても出費がかさんでしまう。
 それに蝋燭は光量だってそれほどでもないので、基本的に夜に作業するために手元を照らす程度の役割しかない。火を使うので、火事だって怖い。
 その点魔法の光は、行使した者の魔力を使う以外にコストは掛からないし、明るいだけで熱を待たないので火事の心配もない。光量は注ぐ魔力量次第だが、明るくしようとすれば昼間のように明るくすることも可能だ。
 だが問題は、それほどの魔力量を保持している者が少ないということだろう。
 魔法自体は学べば誰でも扱えるのだが、持って生まれた魔力量というのは差がある。残念ながら、ほとんどの者はあまり多くは魔力を保有していないのだ。
 そんな中で光の魔法を使用すると、ほとんどの者は本が何とか読める程度の明かりを数分維持するだけで、簡単に魔力切れで倒れてしまうだろう。
 それほどまでに、魔力を多く保有している者はまだ少ないので、夜に光の魔法はほとんど使われていなかった。結果として、太陽と共に起きて太陽と共に寝る。という生活になってしまうのだ。
「………………いえ、違いますね」
 昨夜消えた路地裏から出てきたれいは、周囲に視線を向けた後に歩き始める。
「………………急激な拡張で力が薄くなる。外の世界と同じですか」
 そもそもからして、この地に流れつけるような者はほとんどが力の強い者達なのである。その力は、人であれば特殊な力の保有量。つまりは魔力の保有量が多いという場合が多いのだ。
 他には潜在能力の多寡も影響するが、とにかく、構成している容量が多いというのが条件であった。ごく一部本当に運のいい者達も混ざってはいるが。
 さて、そんな者達であるにもかかわらず魔力量に乏しいのは、周囲の魔力量が関係している。
 ハードゥスの初期の頃は特殊な力は存在していなかったので、その頃に流れ着いていた魔物達は本来の力を出せなかった。というのも、特殊な力というのは体内と体外の濃度によっても変化してしまうのだ。
 初期の頃は体内に流れる力が、特殊な力がほとんど存在しない外に大量に流出しており、結果として体内の力がほぼ常に枯渇しているような状態であった。力が枯渇したぐらいでは死ぬことはないが、本来の力は到底出せない。
 その後、れいは漂着物を集めた一角を覆うように特殊な力を満たしたのだが、それから時が流れ一角が広くなったので、漂着物を集めた一角に満ちていた特殊な力の濃度が下がったようだ。
 特殊な力を発生させる機構は存在するのだが、一角の成長速度には追い付いていない。ハードゥスは特殊な場所でもあるので、この辺りはそう掛からずに時間が解決するだろう。
「………………発現させた力からも流出しているようですからね。結果として消費する力も増してしまうので、維持出来る時間が減ってしまう」
 魔法を使って周囲を照らしている者を見つけ、れいはそう分析する。
 つまりはれいがまた特殊な力を一角に満たせば解決するのだが、それはそれで介入するということになり、れいとしては気が進まない。
「………………だからといって地下迷宮を増やすのも、今後を思えば避けたいですし」
 地下迷宮は特殊な力が満ちている空間である。外界とは隔離された世界でもあるのが、それも完全ではない。なので、僅かだが地下迷宮から特殊な力が外に漏れてはいるのだ。
 一応それも特殊な力を一角に満たす機構の一つではあるのだが、しかし放出している力は微々たるもの。地下迷宮で一角の大地を全て覆えば多少はましになるかもしれないが、そういうわけにもいかない。
 れいとしてはダンジョンクリエーターの処分に困っているので、後先考えないのであればそれでも構わないのだが。
 ただそうなると、挑む者が居なくなってしまう。それでは地下迷宮は成長するだけとなってしまい、面白くない。
 そういうわけで、地下迷宮は現状でギリギリ許容範囲といったところ。いや、既に許容範囲を少し超えている気もするが。
 それはそれとして、そういう経緯があって一時的に全体が弱体化しているのが現在の一角。ただし、地下迷宮内では別で、そちらではその者本来の力が振るえるようになる。
 そんなことを考えながらも、れいは薄暗い中、首都の様子を歩いて回る。今はまだ大通りも開いている店が少ないので人通りも少ない。なので、朝になるまでの時間にれいは裏通りを歩いてみることにした。
 裏通りといっても基本的には居住区なので、治安が悪いとかはない。生活感は溢れているが、その分実際の首都を見ることが出来る。
 歩いていて確認出来るのは肌艶の悪くない人が多いので、食料もしっかりと行き届いているようだ。
 れいは更に奥へと進む。人が大勢集えば、闇も出来てしまうものらしい。
 貧民街というほど規模の大きい物ではないが、それでも先程までの人々よりは貧しそうな者達が集う場所。そんな場所に足を踏み入れたれいだが、そこは今のところ首都の規模の割には小さかった。
 そうやって裏通りを見て回っていると、いつの間にやら朝になっていた。れいは昨日の続きを散策するべく、一度王城の近くへと移動する。

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