バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

ぶらり旅3

 それから何日もかけて首都周辺の町村を見て回ったれいは、ようやく首都へと足を向ける。
 首都は周辺の町村など比べものにならないほどに立派な防壁が囲んでいるので、見るだけで圧倒されるのだろう、首都に入ろうとしている者の中には、その防壁を見上げてぽかんと口を開けている者も居た。
 門には門番が幾人か立っていたが、こちらも身分証の提示などはない。国と言っても首都が一つ在るだけの小さな国なうえに、特殊な環境下で今のところは賊も居ないので必要ないということなのだろう。
 これが別のコミュニティとの交流を始めれば、いつかは賊も出てくるのだろうが。
 首都の中はまだ木造の家が多い。それでも門から入って直ぐの辺りは、石畳に石造りの立派な家が建ち並んでいる。防壁が出来てから建物が建った区画では、建物は整然と並んでいるが、元々別の町として機能していた区画では、まだ整備が行き届いていない場所もあった。
 とはいえ、中央の最初の町に関しては、れいが最初から整然と並べていたので、ほぼそのまま使用されている。中央に立つ立派な王城は、今ではこの国のシンボルとなっているらしい。
 その王城には、代々最初の町で最初の長だった男の一族が住んでいて、今ではその一族が王族となっていた。
 特に初代の町長がれいから唯一加護を授かったというのが大きく、それを根拠に、れいに支配を認められた一族と主張しているようだ。その初代である始祖の妻が大聖女なのも後押ししている理由だろうが。
 実際は加護を与えてみようと思い立った時に、近くに居たのが当時のまとめ役だった人物というだけなのだが。
 他にも、始祖夫妻だけが石像のれいではなく本物のれいの前で宣誓し、なおかつれい直々に結婚を言祝がれたというのは、もはや伝説になっているほど。そういった逸話が幾つもあるので、始祖一家が王族になるのに誰も反対しなかったらしい。
 そして今になるわけだが、そういった経緯があるために、国境が主座教に定まるのは不可避だったことだろう。もっとも、れい自身には全く興味の無い話なのだが。
 大通りを歩いてみたれいは、周囲の町村とは比べものにならないほど賑わっている大通りに感心する。人もぎゅうぎゅうで、慣れていないと身動きが出来なさそうだ。
 そんな人混みに足を踏み入れ、れいは隙間を縫うように雑踏の中を悠々と進んでいく。
 客引きの声はあまり多くないのは、わざわざそれをする必要がないからだろう。れいが軽く見た範囲だけでも、何処も繁盛していた。
 行き交う人々の身なりも華やかで、周辺の町村で見かける人々のように物騒な感じがしない。あれだけ立派な防壁に囲まれているのならば、魔物が街中に入ってくるなど夢にも思わないのかもしれない。
 本当に発展したものだと、れいはしみじみとそう思う。れいが最後にこの地を訪れた時にはまだ国ではなく、物々交換も普通だった。
 それが今では、大勢の人に立派な防壁。貨幣による経済が主流で、物々交換などごく一部でまだ何とか存在している程度。
 魔法道具または魔導具や聖具などと呼ばれている物の生産も僅かながらも行われており、そちらはまだまだこれからという勢い。魔法の方も発展著しく、薬学だって順調に発展しているようだ。
 医術の方は少々足並みが鈍いが、最近薬学の方で一気に進展するような発見がなされたようで、それに引っ張られる形で最近は医術も少しは発展の速度を上げているようでもある。
 人口の方も今でも増加しており、周辺の森を切り拓いて、領土も順調に拡張していた。
 それでも漂着物を集めた一角の拡張の方が速いので困りものだが。そろそろ迷宮大陸の次を造る予定を考えた方がいいほどなのだから。
 そんなことを考えていると、れいは王城近くまで辿り着いた。
 王城の近くには主座教の総本山が在り、かつてただの小さな教会だったその場所には、今では立派な教会が建っていた。最初の教会に倣い、立派な建物になっても孤児院と施療院も変わらず併設されているらしい。
 れいはその建物を見上げた後、開け放たれている正面扉から奥に自分の像が安置されているのを確認して、何とも言えない気分になる。れいを妄信しているエイビスやフォレナーレやフォレナルが居なければ、もう少し穏やか気持ちでれいは自分の像を確認出来たかもしれないが。
 視線を切ったれいは、王城の方に足を向ける。何とも言えない気分になったとしても、自分を崇めるなと言うつもりはない。その辺りは個人の自由であって、れいが何かしら行動や思想を縛ることはない。
 王城は相変わらず奇麗なものだったが、最近塗装でもしたのか、城の色が鮮やかだった。流石に首都に入った時のように気軽に城内には入れないので、れいは王城周辺を歩く。
 結構大きな城だが城壁が立派なので、近いと上部が少ししか見えない。それで問題ないのだが。
 王城周辺を一周したところで、れいは反対側の通りに向かう。しかしその頃には日が暮れ始めていたので、どうしようかと思案したれいは、夜の街並みを歩くのもいいがと思いつつも、一旦出直すことにしたのだった。

しおり