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ぶらり旅

 れいは久しぶりにハードゥスで最初に町を造った場所に赴いていた。
 その地の変化については把握していたが、直接見るのはかなり久しぶりの事であった。
 現在この地は首都とその周辺に町村が点在していて、最早国と言ってもいい規模にまで成長している。首都を囲む長大で立派な防壁を遠目に眺めながら、れいはやや感慨深げにここまで成長した経緯を思い出す。
 元々ここには、れいが流れ着いた家を並べていた無人の町が在った。その町がある程度規模が大きくなったところで、初の人の漂着があり、その者達をその町に住まわせた。
 それから徐々に人が増えていき、町だけでは家が足りなくなる。完全に家が足りなくなる前に近くに村を造り、そこにも人を住まわせていく。
 そうして人が住む場所が二つになり、三つになりと人口の増加と共に増えていき、最初の町を中心とした町の集合体が出来上がっていった。
 それらを一つに纏めて大きな防壁で囲むようにしたのはいつの事だったか。色々と苦労しながらも、遂には全ての町を吸収して大きな街が出来上がった。
 立派な防壁に囲まれたそこは最早首都と呼べる規模になり、何代か前の首長がその地を国として定めたのだったか。
 途中からハードゥスにやってきた漂着者は全て別の場所に送っているというのに、この地はそれからも順調に人は増え続け、今では首都の周囲に衛星の如く複数の町村が出来上がっている。
 れいが遠目に見ただけでも、人の往来は活発だ。しっかりとした街道も出来ていて、小国ながらも確かに国なのだろうと納得できるほど。現在ハードゥスでもっとも発展している場所なだけある。
 この国に関しては、ネメシスやエイビス達も比較的友好的だ。というのも、この国の国教は主座教というものなのだが、その前身である宗教団体の名前がれい教なのである。つまり主座教とは、ハードゥスで唯一れいを主神として崇めている宗教で、ネメシスやエイビスはれいの従神として敬われていた。
 知られているのはほんの僅かなので、従神に管理補佐全員の名がある訳ではないが、それでも他にメイマネなどこの地を担当していた管理補佐の名が連なっている。つまりは、唯一正しい認識の宗教なのだ。なので、ネメシス達もこの国に関しては比較的友好的になっているということ。この地のれい信仰は、れいが姿を現さなくなった今でも根強い。
 この辺りは、大聖女とも教祖とも呼ばれているれい教を興したとある神官の女性の活躍が影響している。その女性がかなりの熱量を持って聖典を書き記したことで、今なお衰えぬ信仰心が引き継がれているのだ。ちなみにこの聖典、ネメシア達も持っているとかいないとか。
 主座教には、れいそっくりの彫像が置かれているので、そのままの姿では行動し難い。なので、れいはこの地を気兼ねなく歩けるように一旦姿を変えることにした。
「………………」
 どんな姿がいいか考えたれいは、正反対の姿で行こうと決める。つまりは長身の男性という姿。ただし、メイマネに似ないように気をつけて。
 現在この地には、管理補佐は誰も置いていない。元々の目的が建物の保全管理と魔物の被害から町を護ることだったので、人々がその両方を自力で行えるようになったのならば、管理補佐は不要となる。
 もっとも、別の地には新しい町が出来ていたりするので、管理補佐達はそちらに移しただけだが。
 自分の姿を確認したれいは、最初は首都周辺の町村に足を向けてみる。
 街道を歩くと、周辺は畑がかなり増えていく。周辺の町村の目的が食料の生産らしいので、納得出来る光景ではあるが。
 幾人もの人達が行き交う街道を、れいは地味な恰好で周囲に溶け込むように歩いていく。
 そうして特に不審がられることもなく、街道が続く村に到着する。
 村は頑丈そうな木の柵で覆われているが、それだけでしかない。門番なんかも居ないので、出入りは自由。一応村の中に警備の兵が詰めているらしいが、十人も居ないらしい。
 村の規模は六十人ちょっと。若者が首都に行きたがるので人口はやや減少傾向にあるらしいが、ある程度歳を取るとその多くが家族を連れて戻ってくるようなので、そこまで気にするほどではない。
 畑で何種類もの野菜を作っているとはいえ、特産品みたいなものは無かった。村を訪れる人も野菜を買い求めに来た商人が多いようで、旅人は少ない。
 商人が来るだけにぼちぼち賑わってはいるが、やはり見るべきものはなさそうだ。見かける村人達は健康的で笑顔に溢れているようなので、悪い場所ではないのだろうが。
 れいはそのまま村を突き抜けて先へと進む。真っ直ぐ通りを歩くだけであれば、三十分ぐらいで村の端から端まで到着出来る。
 次は町を目指してみようかなと考え、れいは脳内に周辺地図を思い描く。町は首都を取り囲むように配置されているので、街道から外れなければ直ぐ到着しそうだった。

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