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迷宮大陸

 ハードゥスは順調に発展していた。もしもこれ以上生き物が流れつかなくとも、ハードゥス生まれの者達がしっかりと増えていっているので問題ないだろうほどに。
 れいはその日、小さな集落が在るだけの大陸を歩いていた。まだ人を誘導し始めたばかりのそこは、完成してそれほど経っていない。
 事前に自然環境を整え、植物や魔物などを順番に定着させていったので、食料や飲み水などは問題ないのだが、その大陸は他とは毛色が違う特徴があった。
「………………ダンジョンクリエーターを配置し過ぎましたね」
 その大陸は地下迷宮がかなりの密度で存在していたのだ。別の大陸では、徒歩で一日圏内に地下迷宮の入り口が二つもあれば多い方であるのに対して、この迷宮大陸とでも言えばいい場所では、徒歩一日圏内に地下迷宮の入り口が三つ四つ在っても普通なぐらい。
 元々他大陸で土地が減ってきたというのが、この大陸に地下迷宮が集中している理由でもある。森や山の中など、既存の場所に入り口をいくつも設置するのは難しかった。
 そういうわけで、新しく流れ着いた大量の土や岩を集め、今まで置く場所が無くて集積して丘にしていた土や岩もそれに加えて、急遽新しい大陸を造ったわけである。
 そこに必要最低限の森や川を設置し、地下迷宮を設置する場所との立地を考えて人が集落を築ける空き地を残したりと、とにかく色々と用意したのが、その迷宮大陸であった。
 そういう経緯があるので、前提として地下迷宮を多数設置するというのは決まっていたのだが、いざやってみると、手元に届いていたダンジョンクリエーターの数が思ったよりも多くて、地下迷宮の密度が高くなってしまった。
 もっとも、致命的というほどの数でもないのが救いと言えば救いだろうか。後は地下迷宮を攻略する者が増えてくれるのを待つのみ。
「………………いっそのこと、加護とやらにしてまた力を与えてもいいですね」
 れいは過去に一度、加護と称してごく僅かに力を与えたことがある。その者は当時まだ少なかった住民のまとめ役をしていた者で、れいの加護を受けて強さが急激に増して制御に苦労していた。
 しかし、そのおかげで勢力圏を一気に拡げることに成功し、後進の指導も熱心に行ったので、今でもその地は旺盛なままであった。おかげで、その地に新しく地下迷宮を設置してみると、積極的に攻略してくれて助かっている。
 今では地下迷宮に囲まれた地となってはいるが、攻略は順調なので、結果としてその地は潤い発展していた。
 れいとしても、攻略が済んで次々とダンジョンクリエーターが討伐されているので、次々流れ着くダンジョンクリエーターを消費出来て助かっていた。それでも消費が追い付いていないのだが。
 そういった事情もあり、また加護を与えることも検討している。ただ、順調なところにテコ入れするか、これからの地に英雄を生み出すかは悩みどころ。
「………………その任はネメシスとエイビスにやらせてみるのもいいかもしれませんね」
 漂着物を集めた一角の管理を任せている二人のことを思い出したれいは、現在ではそちらの方が顔が売れているということを考慮して、勉強がてらにやらせてみてもいいかもと考える。二人の実力的にも問題はない。
 れいはとりあえずそれを一案として考えつつも、他の打開策についても考えていく。加護ではなく武具を与えるというのもいいだろう。
 さてどうしたものかと思うも、それでも採用するのは一つだけという制約があるわけでもないので気楽に考える。現状ではまだちゃんと世界は回っているのだから。
「………………魔物に攻略させるというのは……魔物単体だと難しいかもしれませんね。それならまだラオーネを派遣した方がいいでしょう。ラオーネぐらいなら地下迷宮も通れますし」
 もっとも、何故か未だにダンジョンクリエーターが何度も流れ着いてくるので、早くどうにかしたいところではあるが。
 原因を探ってはいるのだが、どうも偶然が重なっているだけのようであった。
 現在は漂着したダンジョンクリエーターの時を止めてれいが保管しているのだが、あまりそういう処置はしたくはないというのがれいの本音。
 そして、ダンジョンクリエーターの成長に制限まで掛けているというのも早く何とかしたい要因でもある。
「………………この辺りが能動的に動けない弊害でしょうか。構築するにしても、もっと計画性を持って世界を構築したかったですが、ここまでくればしょうがないですね」
 地下迷宮の中に赴き、自らの目で直接内部を確認しながら、れいはそう呟いた。現地の者をもっと鍛えないと、地下迷宮の数がやはり多いなと困りながら。

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