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遊園地

 プチデートを続けて、三カ月が経過しようとしていた。

 由良里に時間を取ってほしいと伝えようとしたものの、本人の前でいうことはできなかった。二人で過ごしているときの彼女は、言葉では表現できないくらい幸せそうにしていた。彼女の幸福のひとときをぶち壊したくなかった。

 忠彦側の事情も大きい。アルバイト先から連絡を頻繁に入れられるため、長時間を確保するのは難しかった。由良里と出会ってから、一五分としないうちに代理を頼まれ、お開きにしたこともある。その場では笑っていたものの、本心では寂しいと思っているに違いない。

 今回の待ち合わせ時間は一一時。一緒に行きたいところがあるので、早めに来るように指定された。

 忠彦のアルバイトの事情を鑑みているともいえる。由良里は直接話さないものの、一人ぼっちにされるのは辛かったのかもしれない。

 由良里と会うために、アルバイトのシフトを他の店員と変わってもらうことにした。普段はお金のために仕事を増やす男も、大切な異性と会うのを優先した。一度くらいなら、学費に響かないと思われる。

 いつもはオンにしている、スマートフォンの電源をオフにした。大切な人とのひとときを純粋に楽しめる空間を作りたい。

 忠彦は会う前から、どこに行くのか期待していた。とびっきりのデートスポットに行けるといいな。

 由良里は約束の二分前にやってきた。遅刻はしないものの、待ち合わせ場所に早くやってくることもない。時刻を調節したかのように正確だ。

 待ち合わせ場所にやってきた女性は、下着が見えてもおかしくないくらいの短めのスカートを履いている。これまではGパンだっただけに、生足に視線を送ってしまった。

「こんにちは」

 顔を合わせようとするも、二つの瞳はロックオン状態になっていた。由良里は本能丸出しになっている男に対して、白い歯をのぞかせた。

「忠彦さんを魅了するために、短めのスカートを履いてきた甲斐がありました。女性としてみてもらえて嬉しいです」

 由良里の恋愛表現はいつもストレートだな。内心を誤魔化そうとする場面は、あまり記憶にない。

 忠彦の視線はなおも同じ個所に視線を送り続けていた。柔らかそうな太腿は、忠彦の理性を崩壊寸前まで追い込んだ。

「男という生き物は野獣みたいです。折に閉じ込めておかないと、いつ暴走するのかわかりません」

 野獣の二文字は、忠彦の現状を示しているかのようだった。

「今日は遊園地に行きませんか。二人分の入場券を持っています」

 遊園地は徒歩で一五分くらいかかる。彼女の体力で大丈夫なのだろうか。彼女は歩いて数分の喫茶店に行くのすら、四苦八苦していた。 

 忠彦は指摘しようかなと思ったものの、由良里に伝えることはできなかった。チケットを手にした女性は、二人きりで遊園地にいくのを心から待ち望んでいた。

 由良里と歩くのは初めてのことだった。これまでは近場だったため、ウォーキングをする機会はなかった。

「デートの気分を味わってみたいので、勝手に手を繋がせていただきます」

 由良里は宙ぶらりん状態になっているところに手を預けた。思いもよらない展開に、胸の鼓動は高まっていた。

 手の力は弱々しく、赤ちゃんに握られているかのようだった。きっちりと受け止めないと、すぐに離れていってしまいそうだ。

 由良里の身体が左右に揺れる。バランスを保てていなかったので、身体を支えることにした。

「ありがとうございます」

 女性は太陽にも負けないような眩しい笑顔を見せる。忠彦は抱きしめたい衝動に駆られるも、理性を働かせることにした。一度でも負けてしまったら、制御装置は木っ端微塵に砕け散る。

 自制、自制、自制と言い聞かせていると、由良里は男性の本能を大いに揺さぶってきた。

「調子が悪くなったときはこちらから身体を預けるので、きっちりと受け止めてくださいね」

 由良里の体重は四〇キロ前後と思われる。力のある男性なら余裕でキャッチできるので
はなかろうか。

「私には支えてくれる人が必要不可欠です。一人では生きることすらままなりません」

 一人では生きられないのは誰も同じ。見えないところで支えられているからこそ、生活を送ることができる。

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