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とある冒険者の話3

 地下迷宮というのは、何処も造りは似たり寄ったりだ。
 横幅も高さもかなりある大きな通路は石造りで、何処までも真っ直ぐに伸びている。これが基本。無論、曲がり角も存在するし、狭い通路も存在する。それに大小様々な部屋が組み合わさって出来た迷路。それが地下迷宮の基本的な造りである。
 しかし、やはり見た目が似ているというのはその通りで、特に浅い階層はほぼ同じ。違いは、出現する魔物と下へと続く階段の位置ぐらいかもしれない。もっとも、それを知る者はまだ現れていないのだが。
 男達がやってきたのは、町に最も近い地下迷宮。現在ここともう一つ地下迷宮が発見されているが、そちらは少し遠い。
 地下迷宮の入り口には、冒険者ギルドから派遣された警備の者が二人立っており、冒険者ギルドから許可を取らなければ中に入れてもらえない。
 男達は朝早くに許可を取っていたので、その許可証を警備の者に渡して中に入る。
 地下一層目に下りると、途端にひんやりとした空気に変わる。寒いというほどではないが、場所が場所だけに何処となく薄気味悪い気分になってしまう。
 頭を振ってそんな考えを振り払うと、男は仲間達と共に地下迷宮を進んでいく。
 現在この地下迷宮は地下四層まで探索が進んでいるが、地下迷宮の広さとそこに出現する魔物に阻まれて先へと進めていない。
 この地下迷宮と似たような存在であるダンジョンなるものが存在する世界からやってきた者達によれば、このダンジョンはダンジョンクリエーターという魔物によって生み出されているらしい。
 そして、このダンジョンは時と共に成長するので、長いこと攻略されないダンジョンはどんどん手強く、それでいて深くなるらしい。
 そういうわけで、ダンジョンの攻略難度はピンキリで、誕生して間もないダンジョンほど簡単に攻略できるという。
 現在このダンジョンが生まれてどれぐらい経っていて、どれぐらいの深さまであるのかは不明だが、そのダンジョンに詳しい者によると、地下迷宮の広さや宝箱の中身の質、出現する魔物の強さとその数、そして頻度などを考慮すると、若いが異常に成長しているという話であった。
 つまり、誕生してそれほど経っていないようで階層はそこまで深くはないだろうが、その代り成長速度が凄まじく、魔物強さが異常に上がっているらしい。
 魔物が強いので攻略が難航してはいるが、しかしいい面として、宝箱の中に入っている物の質が浅層ではありえないぐらいに上がっているらしい。
 ちなみにその者の話では、本来ダンジョンの成長速度はそこまで早くなく、一階層増えるのにどんなに早くとも数年はかかるとか。
 では、ここは何階層あるのか。それについては分からないという回答ではあったが、その者の予想では十階層から二十階層ほどだろうという話をしていた。元々ダンジョンが地上に姿を現した時には最低でも十階層前後には育っているそうなので、ほとんど生まれたてに近いという事になる。
 光源も無いのに明るい地下迷宮では、基本的に明かりは要らない。たまに真っ暗な空間というのもあるらしいが、今のところそんな場所は見つかっていない。
 男達は周囲を警戒しながら慎重に進む。ダンジョンでは道こそ変わらないが、罠に関しては増えたり減ったりするらしい。
 なので、進むのは毎回慎重になる。それでも地図が機能しているだけマシだろう。もっとも、ダンジョンに詳しいその者は、毎回説明の度に最後にこう締めくくる。
『ただしこれはダンジョンの話であり、いくら似通っているとはいえ、地下迷宮の話ではない』
 と。つまり、ダンジョンの説明と実際の地下迷宮では違う部分もあるかもしれないが、それはこちらの責任ではないよということだ。
 男はその説明を思い出し、世界が違うのだからそれも当然だろうとも思う。しかし、一気に胡散臭くなるので、信じていいものか判断に迷う。とも思っていた。
 これは噂話ではあるが、その者は愚痴をこぼすように、そもそもその世界ではレベルとかステータスとかスキルとかいうモノが存在していたが、この世界に来てそれが分からなくなったので、ダンジョンと地下迷宮が同じとは思えないと言っていたとかなんとか。
 何の事だとは思うが、同じ世界から来た者が今のところ他に居ないので、確認のしようもない。ただ言える事は、今のところはダンジョンと地下迷宮はほぼ同じというところか。
 男が頭の中で地下迷宮についておさらいしていると、通路の奥からペタペタと音を立てながらやって来る者を確認する。
 距離はまだかなりある。相手は人の手のひらのような形の足で四足歩行しており、顔は狼。身体は鳥のように羽毛で包まれているが、羽らしきものは無い。
 大きさは人の赤子と大して変わらない。移動速度もハイハイしている赤子並。攻撃手段は狼の顔にある牙で噛みつくだけと、それほど脅威ではないし、現れる数もニ、三体とそれ程多くは無い。
 倒すのは非常に簡単で、地上部分も含めて、この辺りでもっとも弱い魔物だろう。ただし、この魔物を殺し過ぎると何処からともなく厄介な相手が姿を現すので、冒険者ギルドとしても回避を推奨しているほどの魔物だ。
 ただ、そのやって来る魔物に関しては、実はあまり情報がない。探索中だったとあるパーティーが、たまたまそれに殺されている別のパーティーを目撃しただけなのだから。
 その目撃したパーティーの証言では、相手は大きなニワトリのように見えたというものだったが、目撃したのは僅かな時間で、相手を殲滅したら消えるように何処かに行ってしまったらしい。
 では、何故狼なのか鳥なのか分からないような弱い魔物を殺し過ぎると出てくると分かっているかと言えば、これに関してはダンジョンに詳しい者が知っていたのだ。
 知っているモノと全く同じではないが、証言による見た目、去り際に消えること、明らかに他と違う強さ、地下一層目にしても弱すぎる魔物。そういった諸々と合致するのが、その階層の幻の上位個体と呼ばれる存在だったらしい。
 その幻の上位個体は、その階層の魔物を一定数殺すと出現するのが条件らしく、殺し過ぎたパーティーが全滅するか、相手を倒すか、地上に逃げるかしない限りはいつまでも追っかけてくるらしい。
 ダンジョンでは、魔物が階層を繋ぐ階段を上り下りすることはないらしいが、その幻の上位個体に関してはそれが適用されないという。もっとも、ダンジョンを出てしまえば追ってはこないらしいが……しかし、どれだけ時間を空けても、地上に逃げた者がまた同じダンジョンに入ると、何処からともなく現れて襲い掛かってくるという話もあった。
 なので、この敵に関しては可能な限り回避が推奨されている。地下迷宮の通路は広く、相手は遅いうえに少数なので、回避は簡単だ。
 男達は罠に気をつけながら慎重に進みつつ、相手を端の方に誘導させる。
 そうして魔物との距離が近づき、横に余裕を持って回避可能な広い空間を確保したところで、まずは一人が先行する。
 それで罠が無いのを確認してから、残りも急いで魔物の横を通り過ぎていく。
 ある程度魔物との距離を稼いだところで、男達は速度を落として先へと進む。しばらく進むと、また進行方向から同じ魔物が姿を現した。

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