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二人の食事

 喫茶店は閑散としていた。午後二時はすいている時間帯なのかな。

 忠彦のイメージとしては、昼間に利用する人はもっと多いと思っていた。おやつどきなので、小腹を満たしたいメニューをそろえている喫茶店は人を集めやすい。

 スーツを着たサラリーマンが目についた。日曜日なのにもかかわらず、勤務させられるなんて大変だ。彼らはいつ休みを取っているのかな。

 忠彦の生活も大差ない。平日は授業、休日はアルバイトをする生活を送っている。丸々一日休めたのは、大学に入ってからはほとんど記憶にない。ゴールデンウィーク、盆、正月などはアルバイトで収入を得るのに躍起になっている。

 未来のためにも身体を壊さないように気を配りたいところ。健康を損ねてしまったら、全ては台無しとなる。

 由良里を一番近くの席に案内しようとする。彼女は自分の疲労をわかっているのか、異議を唱えることはなかった。

 素直な性格であることに安心感を覚える。気の強いタイプだったりすると、心配りが裏目に出る確率は低くない。負けを認めないために、一番奥の席に足を運んだりする。

 忠彦はサンドイッチ、オレンジジュースを注文しようかなと思った。喫茶店では取り置きしていると思われるので、提供するまでの時間はかからないだろう。

 由良里は何を注文するのかなと思っていると、前回と全く同じメニューだった。

「私はバニラアイスクリームにします。忠彦さんは何にしますか」

 二回続けて同じメニューなのは珍しい。他のものを食べたくないのか、アイスクリームを大好物にしているのかはわからなかった。

「サンドウィッチとオレンジジュース」

「わかりました」

 大学生らしき女性店員がおしぼり、冷たい水を持ってきた。彼女も学費のためにアルバイトをしているのかなと思った。

「いらっしゃいませ。なににいたしましょうか」

 前回とは違って、由良里がメニューを注文していた。

「アイスクリーム、サンドイッチ、オレンジジュースをお願いします」

 女性店員は頭を下げると、ゆっくりとした動作で厨房の中に戻っていった。五秒足らずの動作なのに、お嬢様さながらの優雅さを感じた。

 アイスクリームは最初に運ばれてきた。オレンジジュースよりも早いのは意外だった。

「アイスクリームになります」

 由良里は今回も溶かしてしまうのかなと思っていると、アイスクリームを口に運んでいた。前回はたまたま、おなかが空いていなかったのかなと思わされた。

「マイルドで柔らかいです」

 忠彦はチラ見で、由良里の食べたアイスクリームを見つめた。許されることなら、間接キスをしてみたい。

 一度交際すると、女性に触れたいという顕示欲は強くなりがち。過去の清算を早く図ろうとするために、どうしても距離を縮めようとしてしまう。

 由良里は男の思考を完全に読み取っていた。

「口をつけたアイスクリームを食べたいと思っていますね。本心を隠さないところは、ちょっとだけ可愛いです」

 子供のような扱われたことを悔しいとは思いつつも、本心にはあらがえなかった。アイスクリームに視線を送ってしまっていた。

 由良里はこちら側の感情に気づいてはいるものの、意図にそぐうことはしなかった。淡々とアイスクリームを食べ続けていた。

「アイスクリームを食べていると、幸せな気分になれます」

 由良里のハッピーなところを見られたことで、こちらまで幸せになれたような気がした。

 サンドウィッチ、オレンジジュースは同時に運ばれてきた。注文の時点で、どのような組み合わせなのかを読み取っていたのかな。

「サンドウィッチ、オレンジジュースになります」

 サンドウィッチの具材は、卵、ハム、レタスとオードソックスだった。普通の具材であることに安心感を覚えた。稀にだけどとんでもない具材を詰め込んでいる、サンドウィッチも売られて
いる。

 由良里はアイスクリームを食べ終えると、窓に視線を送っていた。前回と同じく、自分の世界に入り込んでいた。

 二時二五分を回ろうかというところで、スマートフォンの電源が鳴らされた。連絡先を確認すると、アルバイト先からだった。デートしているときであっても、遠慮なく連絡を入れてくる。

 店内で携帯電話を取ると迷惑になりかねない。由良里に事情を告げて一時的に退席することにした。

「もしもし」

 店長はまくしたてるように話をする。経験上、緊急時であることをすぐに察した

「アルバイトの女性が体調不良で、早退したいといってきた。申し訳ないけど、三時までに来てもらえないか」

 この喫茶店から三〇分で、アルバイト先までたどり着くのはどうやっても不可能。早くつけたとしても三時をちょっと過ぎそうだ。

 コンビニは一五分ごとの給料計算。三時一五分に間に合わないのであれば、三時半からの勤務にすればいい。びた一文もらえないのに、レジに立つなんてありえない。

「三時までは無理なので、三時半くらいになりそうです」

 一方的に切り出したにもかかわらず、三時までに出社できないことに溜息をついていた。お金をくれる上司だからぐっとこらえるものの、親だったら逆切れしていたところだ。

「そうか。アルバイトの女性にはそう伝えておく」

 ことの発端となったのは体調不良で早退した女性だ。忠彦には一ミリたりとも非はない。美人をひいきしているのだとすれば、とんでもない上司といえる。

 呼び出されたことに不満を持っていたのか、店内に戻るときの足はドスン、ドスンと響いていた。

 由良里は巨人さながらだった男の様子に、頬を引きずらせていた。

「忠彦さん、どうかしましたか」

「アルバイトに呼ばれたんだ。こっちに事情をちょっとくらいは察してほしい」

 由良里を二度も失望させることになってしまった。交流を深めたいと思っているのに、失礼な態度ばかり取ってしまっている。

 髪の毛を一時間かけてセットし、香水までつけて臨んでいた女性はどのような反応を見せるのかなと思っていると、心を取り乱すことはなかった。

「アルバイトにいってもらってもいいですよ。私はもう帰ろうと思っていました」

 由良里からのさりげない心配りは胸に突き刺さった。同時に彼女への想いはより一層強くなっていた。

 由良里はアルバイトに向かう男性を応援していた。

「忠彦さん、お仕事を頑張ってくださいね」

 彼女も同じ年代なので、仕事をしていると思われる。どのようなことをしているのかな。

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