バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

とある冒険者の話2

 時間が時間だけに、冒険者ギルドに人はあまり居ない。
 建物の中はカウンターが在るだけで、冒険者と呼ばれる地下迷宮の探索を生業にしている者達が建物の中に大勢入れるように場所が広く取られているだけ。
 カウンターの奥には色々あるが、そこはギルド職員しか入れない。
 壁には素材採取の依頼が色々と張り出されているが、基本的にここでは地下迷宮での探索結果の報告と、手に入れた素材の売却が出来るだけ。持ち込んだ素材と依頼内容が合えば、それで処理も可能だ。
 冒険者ギルドは、地下迷宮の管理を行っている場所なので、冒険者にならなければ地下迷宮には入れないし、冒険者には地下迷宮から帰還後には報告の義務がある。
 そうして地下迷宮の情報を集め、冒険者間で共有するための場所であった。それぐらいしなければ、地下迷宮は危険な場所だということだ。
 ちなみに、地下迷宮ではなく周辺の森で素材や食料を採取しているのは探索者と呼ばれており、冒険者ギルドの向かい側にその探索者のための探索者ギルドが在る。そちらは森や町周辺の情報を収集して共有しており、地下迷宮とは住み分けがされている。
 男は冒険者ギルドの壁に張り出されている依頼を確認してから、現在の需要の傾向を確認した後、カウンターに行って受付嬢を口説きながら、明日から地下迷宮に潜るかもと話しておく。そうしておけば、朝早くに来ても地下迷宮に入るための手続きの準備ぐらいは済ませておいてくれる。仮に潜るのが延びたとしてもその辺りは問題ない。
 その辺りの話を終えた後、男は冒険者ギルドから外に出る。
 目が覚めたのが昼ぐらいだったので、色々と用事を済ませていると、もう日がかなり傾いていた。
 とそこに、ゴーンという重く澄んだ音が鳴り響く。音の出所は、少し先に在る教会だろう。朝と昼と夜に一回ずつ鐘が鳴るが、昼以外は少しずれて鳴らされていた。
 朝はある程度明るくなってから鳴るので、大体の店がそれを合図に店を開ける。夜は夕方少し前に鳴らすので、それを合図に店は片付けを始める。ただし、夜に営業している店は、それを合図に準備を始めていた。
 昼だけは太陽が真上に来たらなので、昼食や昼休憩の合図に使われている。
「天深教か」
 町の中でも一際高い塔を目にして、男は小さく呟く。
 天深教というのは、この世界を管理しているとされるネメシスとエイビスという神を崇める宗教団体であった。これは、実際に世界を管理しているれいがあまり表に姿を現さなくなった結果、新しく起こった宗教団体で、れい教が拡がっている地域では存在しない。ネメシスとエイビスはれいの言葉に従い、今のところはそれを静観している。
 鐘の音を聞いた男はそろそろ戻った方がいいなと判断し、速足気味に家に戻る。今日はこの後、明日からのことについて話し合わなければならない。一応パーティーメンバーには明日から冒険者家業を再開する予定なのは休日の前に伝えているが、休日の間に何かあったかもしれないのだから。
 自宅でもあるパーティーハウスに戻ると、既に残りの三人も帰ってきていた。丁度夕食の準備をしていたところらしい。
「ああ、おかえり。今日は早かったね」
 パンの載った籠を机に置いた後、眠たそうな垂れ目の女は、男にそう言ってから籠からパンを一つ掴んで口に含んだ。まだ夕食が始まっていないので完全につまみ食いだが、いつものことだ。もう誰も注意もしない。
「明日のことを話し合わないといけないからな」
「ああ……まぁそうだね。……問題ないとは思うけれど」
 もぐもぐとパンを口にしながら、合間合間に女は男に返答していく。
「ほら、そこどけて」
 そこに、面倒くさそうにそう言いながら鍋を持ってきた大柄の男。その男の言に従い、女は机の真ん中に鍋を置くスペースを作る。
 出来たスペースに鍋を置くと、男は台所の方へと戻っていった。
 それを見送った後、男は一旦武器を置きに部屋へと戻る。
 部屋に修理の済んだ剣を置くと、男は共用スペースである台所に戻る。その頃には料理が机に並んでいた。
 最後に台所から人数分の食器を持ってきたのは大柄な女。鍋を持ってきた大柄な男よりも一回り大きく、パーティー内で一番背も高い。全身に筋肉の鎧を身につけているその女は、近くで見ると圧が凄い。大柄な男と並ぶと、それだけで壁としか言い表せない凄味があった。
 そうして全員が揃うと、夕食を食べ始める。
 食べながら明日について軽く触れたが、本格的な話し合いは食後にすることにした。
 食事を終えると、話し合いを始める。だが、直ぐに全員から問題ないという返答が来て、会議は一分と掛からずに終わってしまう。
 その後は自由時間だが、男は自室に戻って明日持っていく荷物の確認を行った後、明日に備えて早々に就寝することにする。それは他のパーティーメンバーも似たようなものであった。

しおり