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とある冒険者の話

 カーンカーンカーンと木を打ちつける重くも軽い音が響く。
「もう朝か」
 その音に目を覚ました男は、ゆっくりと上体を起こす。
「あれ? あいつどこ行った?」
 目を覚ました男は、昨晩寝床を共にした女の姿が隣から消えているのに気付き、不思議そうに眉根を寄せた後、窓の方に視線を向ける。
「って、朝どころかもう昼かよ」
 ポリポリと引き締まった腹を掻きながら一度大きな欠伸をした男は、近くに落ちていた服を適当に身に付けて部屋を出た。
「ふぁああ。あいつが飯の用意をしてるわけないか。今日は食堂でいいや」
 台所に移動して何か食べるものはないかと確認した後、軽く身支度を整えた男は、まずは腹に何か入れようと思い、家の外に出る。
 家の外には、木造の家が整然と建ち並んでいる。男の住まいは大通りから少し離れているので、人の往来はそこまで多くはない。
 木造の家が建ち並ぶ中に、時折石造りの家が混ざっている。それを見た男は、ふと思い出して口にする。
「そういや、何年か前に石材に適した石が見つかったとか聞いたな。それでもう石の家が建ってるのか」
 やや驚きの声を含むが、男は直ぐに興味を無くす。
 男が住んでいる町の周辺は大きな森に囲まれていて、建築材料と言えば木材だった。それが少し前に近くに石材に適した石の層が見つかり、最近では石材を使用した家だけではなく、主要部分の道路を石畳に替えようという動きもあった。
 防柵も石壁にしたいところだが、今はまだ耐久性などが試験段階らしく、他の結果を見てからということらしい。
 男は近所の食堂に入ると、適当に料理を頼んで腹に入れる。男は職業柄食べられれば何でもいいという主義なので、味は気にしない。というより、最近は味覚が鈍ってきていた。
 そのことについては男も気が付いているが、それについてはむしろ歓迎していた。
(あんなクソ不味い保存食の味が細かに分かるとか拷問だからな)
 前に一応医者に診てもらったが、外に出た時にでも体質に合わない魔力を受けた影響ではないかということで、病気ではないらしい。なので、気にするだけ無駄というもの。
 昼食を終えると、男は一度家に戻る。
「あ、お帰りー」
 家の中に入ると、居間で小柄で童顔の男が椅子に座って本を読んでいた。
「あ? 珍しいな、お前が休日に家に居るなんて」
 男の言葉に、童顔の男は本から顔を上げると、読んでいた本を少し持ち上げる。
「本を借りてきたからね。今日はお勉強さ~」
 見た目通りに幼い声で答えた童顔の男に、男は本を一瞥だけして部屋に戻る。
「あら? また寝るの?」
「買い物の準備。預けた武器が今日仕上がっているだろうからな」
「ああ、そう言えば今日か。ということは、明日からまた冒険者家業の再開かい?」
「多分な。それは今晩にでも決めればいい」
「そ。こういう時はパーティーで家をシェアしていると楽でいいよね」
「まぁな」
「でも、女を連れ込むのは程々にね。隣室の住人としては煩くて敵わないよ。ここの壁はそれほど厚くはないんだから」
「ああ、それは済まなかったな。今度からどっか宿の部屋でも取るわ」
「そうしてくれ」
 軽く肩を竦めると、男は自室に戻る。それから外出準備を整えると、再度外に出た。
 固められただけの土の道を歩き、男は目的の店を目指す。
 少し奥まった場所に在るその店は、刃物を専門とする鍛冶屋。包丁から大剣まで、刃物であれば何でもござれの鍛冶屋である。刃が付いているなら、戦斧だって槍鎌だって置いている。
 周囲に比べれば大きな店なのだが、中に入ると直ぐにカウンターが在り、武器はその後ろに展示されていた。
 カウンターには、髭もじゃな背の低い屈強そうな男が立っていた。ドワーフと呼ばれている種族だが、世界によって様々な呼び名があるので、ここでは種族名など在って無いようなもの。
「ん? やっと取りに来たか」
 背の低い男は、店に入ってきた男を見て方眉を上げる。
 現在は昼も大分過ぎた時間帯。鍛冶屋としては暇な時間らしく、客は男以外誰も居ない。
「武器の修理は済んでいるか?」
「とっくにな。朝から来るかと思って待っていたんだがな」
「はは。久しぶりの休日だから、ちょっと昨夜は頑張りすぎてね」
「そうかい。ほれ、お前さんの武器だ、確認してくれ」
 カウンターに置かれた、布に包まれた二本の剣を手に取ると、男は布を剥がして確認していく。
「それと、鞘の方も随分と痛んでいたから、少し直しておいた。こっちはサービスだ」
「おお、気前がいいな」
「ま、お前みたいなのでも常連だからな。これぐらいはしてやるさ」
「はは。相変わらずなおっさんだな」
 憎まれ口を叩く小柄な男に、男は愉快そうに笑って剣を鞘に納める。
「んじゃ、追加料金もないようなので、またな」
 ひらひらと手を振ると、男は腰に剣を差して店から出る。
 その後に男は大通りの方にまで足を伸ばす。大通りもまだ床を踏み固めただけの道だが、それでも一部石畳に変わっている。
 男は大通りを進み、町の中心に近い場所に建つ一際大きな建物の中に入っていく。
 その建物は冒険者ギルドと呼ばれる場所で、町の近くに在る地下迷宮に挑む者達を支援するために創設された場所であった。

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