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双子とコンビニおもてなし その1

「ステルちゃ~~~~~ん、おめでと~~~~~~~」
 スアが出産した翌日、早速スアママことリテールさんが転移魔法を使ってお祝いに来てくれました。
 で、そのリテールさんなのですが、自分が展開した魔法陣から体の前部分は出ているのですが、なんかそこでつっかえているんですよね。
「あ、あら? おかしいわね、ん~! ん~!」
 リテールさんはそう言いながら必死に魔法陣から抜けだそうとしているのですが、一向に抜け出てくる気配がありません。
 で、そんなリテールさんを見ていたスアがですね、リテールさんに向かっておもむろに右手を広げました。
 すると、その手の先に魔法陣が展開したかと思うと、次の瞬間、リテールさんの周囲を覆っている魔法陣がいきなり3倍くらいにでっかくなりました。
「はわわぁ!?」
 で、そこまででかくなった魔法陣のおかげで、リテールさんってば、ようやく魔法陣から抜け出す事が出来て、巨木の家の室内へと入ってくることが出来たんですけど……リテールさんは背にリュックサックみたいなものを背負っていたんですけど……
「お、お義母さん……そ、その荷物はなんですか?」
「あぁ、これぇ? 赤ちゃんやぁ、パラナミオちゃんやぁ、リョータくんにお土産をと思って準備してたら、なんか気がついたらこんなに大きくなっちゃったんですよぉ」
 リテールさんってば、なんかテヘペロしながら苦笑してますけど……その背のリュックがですね、リテールさんの体の倍くらいありそうなくらいふくれあがっていたんですよ。

 ……そりゃ、魔法陣の出口でひっかかりもするよなぁ……

「っていうかお義母さん……魔法袋に入れてくれば、そんなに大きくならずに済んだんじゃあ……」
 僕がそう言うとですね、リテールさん……しばらくその場で固まってですね、そのまま僕の顔を凝視していたんですけど、その後
『その手がありましたねぇ!』
 的な表情を浮かべながら、何度も何度も頷いていたわけです、はい……え? マジで魔法袋の事を忘れてたんですか?

 で、まぁ、苦笑しきりなリテールさんは、目一杯のお土産を部屋の片隅にとりあえず置くと、即座にスアの元へと駆け寄っていきました。
 スアは、ベッドの上に座って赤ちゃんを抱っこしています。
 ちなみに、今はアルトを抱っこしています。
 ムツキはスアの横で気持ちよさそうに寝息をたてています。
「まぁまぁ、この2人が新しい赤ちゃんなのねぇ」
 リテールさんは、そんな双子の赤ちゃんを交互に見つめながら両手で自分の頬を押さえて、頬を真っ赤に染めていました。
 で、よく照れたスアがやっている、照れり照れりと体をくねらせるダンスを始めたわけです、はい。
 こういう仕草を見ると、やっぱスアとリテールさんって親子なんだなぁ、と改めて実感しちゃうわけです、はい。

 そんなリテールさんの前、スアに抱っこされているアルトも、ムツキ同様にスヤスヤと気持ちよさそうに寝息をたて続けています。
 産まれてすぐに思念波でお話ししまくっていたアルトなんですけど、そこはやはり生まれたての赤ちゃんです。すぐに体内魔力が枯渇しちゃったみたいで、あっという間に寝入ってしまったんですよね。
「……この子、すごい能力をもってるけど……まだ赤ちゃんだから、ね」
 スアは、優しい笑みを浮かべながらアルトを抱きかかえています。
 リテールさんは、アルトとスアを交互に見つめながら感慨深そうな表情を浮かべています。
「ステルちゃんも、ホントお母さんの顔になったわねぇ……」
 リテールさんは、嬉しそうにそう言いました。
 で、その言葉を聞いたスアも、嬉しそうに笑顔を返しています。
 で、リテールさんはですね、そこですっくと立ち上がると
「やっぱり私も赤ちゃんを産みたいわ。ステルちゃんの弟か妹を産みたいわ」
 そう言うやいなや僕に向かって駆け寄りながら、
「というわけで、ステルちゃん、旦那様をお借り……」
 そう言いかけたんですが……そこで、リテールさんの姿はまるでかき消すかのよう僕の目の前から消え去っていきました。
 同時に、巨木の家の外を流れている川に、何かがどっぽ~んと落下する音が聞こえてきました。
「……だから、旦那様はダメ、って……いつも言ってるの、に」
 ベッドの上のスア、そう言いながらさっきまでリテールさんがいたあたりに向かって右手を向けていたんです。
 スアがですね、転移魔法を使ってリテールさんを外の川に放り込んだのは、まぁ間違いないわけで……

◇◇

 結局、アルトは翌朝までぐっすり眠っていました。
 で、起きるやいなやですね、アルトは横で眠っていたスアと僕に向かって
『お父様、お母様、申し訳ないのですが、アルトはお腹が空いておりまして……』
 と、およそ赤ちゃんとは思えない、すごく丁寧な口調の思念波を送ってきました。
 で、早速スアが、自らが事前に準備しておいた粉ミルクをほ乳瓶でアルトに飲ませてあげました。
 
 ちなみに、この粉ミルクはですね、リョータがまだ赤ちゃんだった頃、お乳の出が悪かったスアのために試行錯誤して作り上げた品物でして、今は『リョータミルク』としてコンビニおもてなしでも販売している人気商品です。
 ほ乳瓶はブラコンベのガラス職人ペリクドさんの工房で作成してもらっている品物で、これも人気商品なんですよね。

 アルトは、よっぽどお腹が空いていたらしく、スアが準備してくれていたリョータミルクを2瓶飲み干しました。
『お母様、ありがとうございました。アルトはようやくお腹が落ちつきました』
 そう言うと、アルトは、今度はなんかモジモジしはじめてですね、何事かをスアにだけ思念波で伝えていきました。
「どうした、アルト。何かあったのかい?」
 僕がそう言うと、アルトはその顔を真っ赤にしてですね
『あ、あの……お父様にはちょっと……』
 そう、僕に思念波を送ってきました。
 で、そんなアルトの様子に、僕が首をひねっていると、
『……おしっこだって』
 今度はスアが、僕にそっと思念波を送ってきてくれました。
 それで、全てを察した僕は、とりあえず部屋を出て行きました。
 で、アルトは、結局スアにトイレに連れて行ってもらってですね、そこで抱っこされた状態で用を足したそうです。
 ……別におむつにしてもいいのにねぇ……まだ赤ちゃんなんだから。
 僕がそんなことを思っていると、部屋の中でいきなりムツキが大泣きし始めました。
 スアは、まだ戻って来ていません。
 で、僕は慌てて部屋の中に戻ったのですが……そこには、ムツキのおむつを交換してくれているリテールさんの姿がありました。
「懐かしわぁ、ステルちゃんのおむつを替えてた頃を思い出すわぁ」
 リテールさんは、そう言いながらテキパキとおむつを替えていきます。
「わぁ、そうやるんですねぇ」
 そんなリテールさんの手元を、パラナミオがマジマジと見つめています。
 で、同時にその両手を動かしてリテールさんのやり方を覚えようともしています。
 さすがお姉ちゃんですね。
 いざとなったら自分が出来るように……そう思っているのでしょう。
 ホントに、頼りになるお姉ちゃんです、はい。

◇◇

 で、ですね、せっかく双子の女の赤ちゃんが生まれたわけです。
 コンビニおもてなしでも『こんにちは赤ちゃんフェア』を開催することにしました。
 店内で販売している赤ちゃん用品をすべて2割引にしました。
 粉ミルクやほ乳瓶、おしゃぶりや積み木、ベビーカーや離乳食なんかが対象です。
 で、それだけじゃあれなので、弁当も1割引にしたんですけど、フェア当日からコンビニおもてなしはすごい数のお客様でごった返していきました。
 何しろ、赤ちゃん用品はこの世界ではコンビニおもてなしでしか売っていないと言っても過言ではありませんからね。
 アルミモドキで缶詰状態にして販売している離乳食なんかは日持ちしますので、ここぞとばかりにまとめ買いするママさんが次から次へとやってきました。
 で、本店を訪れたママさん達はですね、僕に向かって
「店長さんおめでとうございます」
 と、口々にお祝いを述べてくれました。
 なんか、僕もすっごく嬉しくなるわけです、はい。

 そんなわけで、今日のコンビニおもてなしは、いつも以上にお客様でごった返していたにもかかわらず、どこかほんわかした空気に終日包まれていました。

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