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タクラ家の新たな光景 その3

 スアが出産した双子の女の子ですが、1人は普通の生まれたての赤ちゃんらしく乳母役のキキキリンリンに抱っこされて産湯に浸かりながら元気な泣き声をあげているのですが……その産湯の入っているタライの中でですね、もう一人の女の子は自分の手で自分の体を洗いながら気持ちよさそうにしているんですよ……
 しかも、キキキリンリンが抱きかかえている赤ちゃんより確実に2周りは大きいんです……っていうか、こんな大きい女の子が入っていたんじゃ、そりゃスアのお腹も膨らむわけです。
 で、その大きな方の女の子ですが、僕を見つめながらニッコリ笑うとですね、
『お父様、やっとお会い出来ましたわね』
 そんな思念波を僕の脳内に送ってきたかと思うと、
『ふつつか者ですが、これから娘としてよろしくお願いいたします』
 そう言いながら、産湯の中で深々と一礼していきました。
 僕は、そんな女の子の様子に唖然としながらしばらく凝視していたんですけど、するとその女の子は、
『もう、お父様ったら……そんなに見つめれたら恥ずかしいですわ』
 そんな思念波を僕に送りながら、胸のあたりを両手で覆っていきました。
 ……い、いや、その……確かにストーンなスアを愛して止まない僕だけど、娘に欲情する気はないってば。

◇◇

 と、まぁ……規格外な能力を持った女の子と、ごく普通な女の子の双子が生まれたわけです、はい。
 で、そんな2人を出産したスアですが、やはり大きい女の子を産んだのが相当あれだったらしく、ぐったりした様子でベッドに横になっていました。
「……こ、これでも、負担軽減魔法かけたんだけ、ど……」
 それでもこれだけのダメージがあったってことは、相当だったんだなぁ……僕は、そんなことを思いながらスアの寝ているベッドに腰掛けました。
 するとスアは、そんな僕の前で、ベッドの脇にある机に手を伸ばしていました。
 そこには、スア特製の魔法薬の入った瓶が置かれています。
「これかい?」
 僕は、それを手に取るとスアに手渡しました。
 スアは、コクンと頷きながらその瓶を受け取ると、中の液体を一息で飲み干していきました。
 
 すると、どうでしょう。

 それまで真っ青な顔をしていたスアなんですが、一瞬にしていつもの顔色に戻りました。
 そして大きく息を吐くと
「……ふぅ……もう大丈夫、よ」
 そう言ってニッコリ微笑むと、僕にしなだれかかってきました。

 え? 何? この超回復!?

 で、スアによりますと、先ほどの飲み薬なんですけど、例の厄災の龍の肉をすり下ろして作成した粉薬を飲みやすいように液体に溶かした物だったらしいんですよ。
「……回復効果も半端ないんだなぁ」
 僕は、僕に抱きついているスアの頭を撫でながら感心しきりだったわけです、はい。
「って、いうか、あの大きな女の子がもう思念波を使えるのも、ひょっとしたらこの粉薬の影響なのかな?」
「……ひょっとしなくても、そうだと思う、よ」
 僕の言葉に、スアはコクンと頷きました。

 ……なんていいますか、伝説級の魔法使いが超レアな素材を手に入れると、とんでもない薬を作り出してすごい子供を産んじゃうってことなんですかね……ははは。

 ちなみに、この厄災の龍の肉なんですけど、自称スアの弟子ブリリアンがすり鉢ですり下ろそうとしたんですけど、硬すぎて手も足も出なかったんですよ。
 その肉を切り分けるのにしても、イエロの刀も刃が立たなかったほどなんです。
 ……で、そんな肉をですね、スアは魔法でサクッと切り取って、魔法でゴリゴリすり下ろしちゃったわけです。
 傍目からみれば、すごく簡単そうな作業をしているように見えていたんですけど、おそらくこの世界ではスアにしか出来ないようなとてつもない魔法を駆使しながら作業をしていたんだと思われます、はい……

 で、妊娠中にもこの薬を『……お腹の赤ちゃんの成長にもいいはず、よ』そう言って服用していたスアなもんですから、そのおかげで、産まれて来た赤ちゃんの一方がすごいことになってるわけですよ。

 その大きい方の赤ちゃんはですね、キキキリンリンに赤ちゃん服を着せてもらってベッドの上に寝かしつけられると、自力でむくりと起き出しまして
『お父様お母様、お会い出来てうれしゅうございます』
 そう思念波を送ってきてですね、再びペコリと頭を下げました。
 ただ、体は大きいのですが、まだバランスをとるのに慣れてないらしいその女の子は、ベッドの上で転がりそうになりました。
 いくら思念波が使えるとはいえ、まだ産まれて間がないわけです。
 首も据わってないかもしれませんし、僕は咄嗟にダイブして大きな女の子を両手で受け止めました。
 すると、その大きな女の子は
『まぁ、お父様に助けていただけたのですね……このご恩、一生忘れませんわ』
 そう言いながら、なんか嬉しそうに微笑みながら頬を赤く染めていました。

 で、まぁ、大きな女の子が規格外なもんですから、すぐにでも名前を付けてあげないと……そう思ったわけです。
 なんせ、いつまでも大きな女の子呼称では、ねぇ……
 で、スアにですね
「スア、この子達の名前だけど……」
 僕がそう言うと、スアはにっこり笑って
「……旦那様の考えてくれたので、いい、よ」
 そう言いました。
 ……まぁ、この様子だと僕が考えていた女の子の名前も、すでに承知の上なんでしょうね。
 なんせスアは、僕の考えていることをほぼすべて読み取れちゃうんですから。
 その上でそう言ってくれてるってことは、スアもこの名前を気に入ってくれてるんでしょう。
 で、僕は、部屋の中を一度見回していきました。
 部屋の中には、パラナミオやリョータ、タルトス爺とキキキリンリンだけでなく、赤ちゃんが生まれたと聞いて駆けつけて来た魔王ビナスさんやヤルメキス、ブリリアン達コンビニおもてなしの面々もいたわけです。
 で、そんな皆の顔を見回した後、僕は一度咳払いをすると、
「え~、女の子達の名前ですが……大きい方の女の子をアルト、もう一人の女の子をムツキとします」
 そう言いました。
 すると、それを聞いたパラナミオがですね、パアッと笑顔を浮かべてベッドの上でスアに抱っこされていた2人の女の子に駆け寄っていきました。
「アルトちゃん、ムツキちゃん、私がお姉ちゃんですよ、パラナミオですよ!」
 嬉しそうにそう言うパラナミオ。
 で、そんなパラナミオにアルトがですね
『パラナミオお姉様、私こそよろしくお願いいたしますわ』
 そう思念波を送りながら軽く頭を下げました。この思念波は、アルトが家族みんなに送ったみたいです。
 なので、タルトス爺やキキキリンリンの脳内には伝わってなかったそうなんです。

 ちなみにですが、リョータも思念波を使えるのですが、アルトのように複数人に対して一度に思念波を送ることはまだ出来ないそうなんです。
 この後、僕の元に歩み寄って来たリョータがそう教えてくれたんですけど、
『パパ、僕がんばりますよ』
 そう言って、なんか対抗意識を燃やしていたんですよね。
 そこはお兄ちゃんなんだから仲良くね、と伝えておいたんですけどね。

 で、アルトはですね、家族皆に思念波を送った後、僕の方へと向くと、
『お父様、素敵な名前をありがとうございます。アルト……とても嬉しいですわ』
 そう言ってニッコリ微笑みました。
 その笑顔だけ見ると、ごくごく普通の赤ちゃんなんですけど……なんといいますか、すごい女の子が生まれたわけです、はい。

 名前のお披露目が終了した途端に、ベッドの周辺をみんなが囲んでいきました。
 寝室の中には、みんなの楽しそうな声が充満しています。
 その楽しげな雰囲気のおかげでしょうか、さっきまで泣いていたムツキもいつのまにか笑顔になっていました。
 スアに抱っこされてる2人。
 こうして、無事我が家に新しい家族が加わりました。

◇◇

 で、まぁ、赤ちゃん用品が必要になるわけですけど、そこはコンビニおもてなしにお任せなわけですよ。
 何しろリョータの成長に合わせて様々な赤ちゃん用品を製造して、ついでにそれを商品化し続けていますからね、たいていの物ならすでに揃っているわけです。
 早速僕は店に移動して当面必要そうな品物をかき集めていきました。
 で、いくら自分の店の品物だからって、タダで持って行くわけじゃありませんよ。
 ちゃんとレジを通して、お金を支払ってから巨木の家へ持って行きます。

 でも、なんですかね……レジを通しながら、僕も笑顔がとまらないわけですよ。
 やっぱ、うれしいですね、家族が増えるのって。

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