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北の森にて

 見回りは順調に進む。
 途中ちょっとしたイベントが発生したが、まぁそれはいい。この世界においての法はれいであり、裁定者もまたれいなのだ。そして断罪者もまたれいなのだから、その辺りは全てれいの胸三寸次第。
 雪山を一日掛けて見回ると、今度は麓の森へと向かう。
 その森は、雪山から流れる大量の雪解け水が育んだ自然豊かな森。そういうコンセプトの下にれいが設置した森だった。とはいえ、それも随分と昔の事。今では本当にそうなり、森も順調に拡がっている。
 木だけではなく茸や山菜も豊富で、森周辺は年間を通して穏やかな気候なだけに、食材には年中困らないほど。ただ、動物は最近やっと流れ着いた魔物が僅かに放たれているだけ。その辺りの繁殖はこれからだろう。それが上手くいけば、森の食材に肉も加わる事だろう。
 何処からか、ピチュピチュと可愛らしい鳥の鳴き声が聞こえてくる。これも放した魔物の一種で、可愛らしい鳴き声に反して結構大きく、見た目が凶悪。元の世界の情報を参照するに、その鳥の肉は癖の無い脂が特徴的で美味しいらしい。
 そんな長閑な森を散策もとい見回りをするれい。
 最近他の世界も活気が出てきているようで、管理者達の交流場は連日盛況。そこから漏れ聞こえる話によると、最近管理者達の間では自分が創った世界を旅するのが流行っているらしい。勿論、バレないように力を隠すというのが前提らしいが。
 そのうえで、管理者達は交流の場で自分の世界が如何に凄いかを自慢しているとかなんとか。更にはそこから発展して、互いの世界を同様にバレないように力を隠したうえで、経験してみるという交流も始まってきたようだ。
 世界は時間と共に発展するが、それも世界によって結構差が出る。普通にしていてもそうなのに、そこに管理者が干渉する場合もあるので、余計に。
 この交流が互いにいい刺激になればとは思うが、それは今後の経過次第か。
 他にも、管理者自らではなく、管理補佐や住民を送ったり交換してみたりというのもあった。管理補佐の場合は、大抵は住民に紛れるのではなく、管理側の研修みたいな扱いではあったが。
 住民の方は文明の差によっては意味がないので、大体は同じぐらいの文明同士で住民を交換したり、進んでいる文明側の住民を、文明が遅れている側の世界へ一石投じるために送り込んだりといった感じだ。
 住民は管理者にとっては所有物のような感覚なので、感覚的に言えば駒の交換に近い。なので、どれも事前に住民に通知している事が少なく、別世界に連れていかれる住民にとってはひたすらに迷惑な話でしかない。それと、住民を交換なり送るなりした場合は、そのまま死ぬまで元の世界に戻って来られないという場合も多かった。
 しかし、容量が少ないとはいえ、住民もその世界にとっては貴重な資源である事には変わりないので、大抵は死後にその存在を構成していたリソースだけは元の世界に返すという取り決めになっているようだ。
 そういう感じが、最近の交流事情。色々不安な要素はあるも、交流が活発なのはいい事だろう。それはれいの当初の目的通り。
 創造主の方の懸念はれいがある程度払拭したので、そちら方はそこまで気にする必要はない。後の問題は。
「………………管理者の質も落ちたものですね」
 いつの頃からか、創造主が人を参考にしたのかどうかはしらないが、管理者に感情を組み込み始めたのだ。元々管理者は管理することを前提に創られているので、それに不要な感情という部分は乏しい。だというのに、管理者に感情を組み込んだ事で少しずつ歪んでいってしまった。
 初期の頃の世界では全てが等しく管理されたものだが、最近では管理者が特定の種族を贔屓するなどという場面も確認されている。
 管理者同士でも諍いが起こる事も増えてきた。唯一の成功点は、少し変わった世界が創られることが若干増えた気がする程度か。それも平等を覆したからという部分が在るのも否めない。
 れいとしては、感情を管理者に組み込んだのは失敗だったと思っている。試験的な運用だったのならばもうやめるべきなのだろうが、創造主にはやめる気は無いようだ。
 そもそも、最初こそ感情が乏しい管理者だが、その辺りは成長と共に少しは育まれていくものなのだ。創造主の行いは余計なお世話とも言えた。
「………………とはいえ、こちらからは何も言えませんし」
 意思疎通の出来ない創造主である。れいが気に掛けるだけ無駄な事なのだろう。れいは既に創造主の手から離れているのだし。
 気持ちを切り替えるように一つ息を吐き出す。何も無さ過ぎるというのも余計なことを考えてしまうようだ。
 森の中を進み、雪山から離れた森の一角に到着する。
 そこには一軒の大きな屋敷が建っていた。周囲の森と調和するような造りのその家は、雪山やその麓の森を管理している管理補佐が住まう家。
 れいは管理補佐に何か変わった事はなかったかと聞くためにその屋敷に向かう。
 れいはこの世界の事であれば全て把握しているが、しかし、もしかしたら何かしら見落としているかもしれない。なので、れいは赴いた地で管理を任せている管理補佐のところへは必ず足を運ぶようにしていた。

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