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 キバの率いるアルザス軍は、城の裏手で二手に分かれ一目散に逃げ出した。
 キバが予想した通り、ラセックス軍は隊を二つに分けてアルザス軍を追いかけてきた。

 もちろん元々勢力差があるので、ラセックス軍が半分に分かれても、こちらも半分に分かれている以上、こちらが劣っている状況は変わらない。

 ――だがそれもこの瞬間だけだ。

 キバたちは、全速力で森の中を駆け抜けていく。
 ラセックス軍も追いかけてはくるが、地の利があるのでなかなか追いつくことができない。

 ――そして、おいかけっこをはじめて、十分ほどしたところで、キバの軍隊は行き止まりにぶち当たる。

 森を抜けた先、そこには川が広がっていた。
 開けているが、行き止まりで、橋もなくこれ以上前には進めない。

「追い詰めたぞ……! どうやら逃げ回るのもここまでのようだな」

 ラセックス軍を率いる副官が、高らかに宣言した。

 だが、キバは毅然とラセックスの軍隊に向き直る。

「それはどうかな?」

 アルザス軍300人に対して、鉄鬼軍は精鋭揃いの500――
 アルザス軍は武器を構えるが、魔法のプロであるラセックスのと真っ向から立ち向かえば、あっという間に蹴散らされるだろう――

 ラセックスの兵士の誰もが勝利を確信した次の瞬間。

「突撃!」

 響いた声は――王女エリスの高らかな声だった。

「なんだと!」

 ラセックスの兵士たちが全く予想していない展開。
 側面から、アルザス軍の残りの半分が突然現れたのだ。

「バカな!」

 やつらは、ルイーズ将軍が追いかけていたはず!
 それなのに、ルイーズ将軍はみあたらず、ラセックス軍はアルザスの全軍に取り囲まれてしまったのだ。

 ラセックス軍に動揺が走る。
 副官も一体何が起きているのか、把握ができない。
 だが危機的状況だということだけはわかった。だから部下に檄(げき)を飛ばす。

「ひるむな! 敵は所詮、寄せ集めだ!」

 ラセックスの副官は叫ぶ。だが、無駄だった。
 不意打ちにあった上、自分たちより数で勝る敵に挟み撃ちにされては、さすがの鉄鬼軍もひとたまりもない。

 ――勝敗はあっという間についた。
 もはや勝利は不可能と悟ったラセックス軍はあっけなく降伏した。

「すごいです! 軍師様! 軍師様の言うとおりにしたら、あっという間に敵を倒すことができました!」

 アルザスの兵士たちがキバに喜びを伝える。

「まぁたいした作戦ではなかったですけどね」

 ――キバの作戦はとてもシンプルだ。
 自分たちが分裂して逃げたと見せかけて、敵を分断して、地の利を活かして、その片方ずつを各個撃破する。

 戦の基本のキの字に従っただけ。

 ――もっとも、そのためにいくらか用意はしていたのだが。

「さぁ、残党を片付けに行くぞ!」

 そう言って、アルザス軍たちを鼓舞する。

 と言っても、パフォーマンスで士気を高めただけで、ここから簡単な仕事だ。
 エリスたちを追いかけた、敵の大将ルイーズの一団を、その倍近い戦力で倒すだけ。

「今頃、川をわたっているはずだ。そこを叩く」

「承知しました!」

 アルザスの全軍はそのまま北上して、ラセックスの残りの兵を発見する。
 キバの読みどおり、ちょうど川に氷の橋を架け終えて渡ろうとしていた。

「なにっ!?」

 突然、アルザスの全軍が現れたことに動揺するルイーズ。

「奴らを追いかけた味方はどうしたのだ!?」

 ルイーズが状況を飲み込めないうちに、アルザス軍が襲いかかる。

「炎の攻撃で橋を壊せ!」

 橋を渡っている途中のラセックス軍は、突然の敵襲になすすべもなく崩壊する。まともな戦闘にさえならない。
 先頭にいたルイーズとわずかな兵がなんとか橋を渡り終えるも、数の差は歴然だった。
 もはや戦うという選択肢はない。

 ルイーズは、何が起きているのかを把握しないままに降伏せざるを得なかった。

「バカな……私が負けるなんて……しかも、こんな弱小国に……」

 ルイーズは、自分が負けたことを全く受け入れられないでいた。
 なぜ自分が負けたのか理解できないのだ。

「ルイーズ殿下、あなたは最初から負けていたんです」

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