バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

出会いの思い出

 夕方の方が話すテンションが上がりますので、未来との出会いの話を夕食後にすることにしました。初めて未来に出会ってからの数日間のことが走馬灯……

「おい! 純!」
「あっ、すまん。風呂であの世行きになりかけた。」
「お前、俺と結婚してからずっとそんな調子かよ……油断したら、ド座衛門になってあの世行きだぞ……お前に子供の顔いや、孫の顔見てもらわないと困るぞ。」
「まあ、なんと長い先のことを。ただ、ここで死んだらダメだよな。」
「俺の寿命縮めるの、本当勘弁してくれよ……しっかも、今、揚げ物作ってるんだ。本当だったら手が離せてないはずだ。たまたま見回りに来てたから助かってんだぞ。自己管理ちゃんとしろよ……」
「すまんな……」
「ま、とにかく早く上がって来いよ。」
「ああ。今あがる。」

 そう、前からお風呂で寝る癖がなおらないのが悩みです。一度、おぼれてあの世行きになりかけたことがありました。その時から未来は、僕がお風呂に入る度に脱衣所から声掛けしてくるのです。まあ、あの時に息を吹き返したのは自力でしたが。


 夕飯は、ゆかりさんも一緒に座って食べています。昼夜逆転してもらわないためにも、夕食会は全員参加。そう決めてます。食堂の時計の上には、六字名号の掛け軸がかかってます。知り合いの住職からいただいた物ですが、なぜもらったのかというと、魔よけのお札代わりに掛けておいた方が良いと勧められたからです。六字名号とは、「南無阿弥陀仏」のことであります。九字名号や十字名号は、主に浄土真宗で使用されますが、僕の家は浄土宗ですので六字名号の掛け軸をいただいたのです。

「命に感謝し」
「いただきます。」「いただきます。」

 全ての命に感謝して生き、永遠の命を持つ阿弥陀仏の西方極楽浄土で生まれ変わる。これが、念仏行者の定め。未来と夫婦の誓いを交わした時に、夫婦で念仏行者になることを誓ったのです。「いただきます」と言うだけなのに一言多いのは、食事を念仏行者の大事な修行の1つと自覚するためなのです。

「未来師匠と結婚したのは、いつだったんですか?」
「確か……高校の卒業式の前日だったな。未来は、残念ながら、戸籍がなかったから入籍させてやれなかった。だが、結婚式はやりたいと強く両親と未来が言ったから、知恩院さんの阿弥陀堂でやったんだ。」
「仏式ですか、師匠?」
「ああ。仏式だ。教会でやったと思ったか?」
「大概日本の結婚式ってキリスト教式だったはず……」
「仏式もあったって知ったきっかけは、マスターだ。マスターは、熱心な浄土宗檀信徒で、総本山の知恩院と縁が深い。それに、マスターのおじい様のお骨が知恩院の納骨堂にある。霊気に歓迎されていたようだが、そうだよな?」
「ああ。僕達を歓迎している霊気がかなり強かったな。結婚式は、歓迎される場でやるのが、望ましかったからな。あそこでよかったな。うん、祖父の喜ぶ霊気を強く感じたな……」
「霊気?」
「霊感の強い人が感じる霊的存在だ。」
「だけどな未来、僕は霊感が弱い方だぞ。」
「じゃ、マスター、ゆかりはあるのか」
「ない、残念ながら。」
「えっ、どうして」
「お前ら2人はアンドロイドだ。霊感あるのは、限られた生身の人間だけだ。それに、僕はまだ霊感が弱い方だ。強い奴は、姿まで見える。」
「強い奴って、陰陽師になれるのか?」
「んな、馬鹿な。なれるやつなんて限られてるぞ。しかも、強くても、幽霊とか全部見えて精神的にしんどいぞ。陰陽師なんて、鋼メンタルじゃないとまずなれない。」
「そうなんですね……でも、弱くても、なんか不思議な力があるから、精神的に周りより優位に立てますよね?」
「そんなとこで優位になってもな……でもな、ある意味心強いかもしれないな。」
「ド座衛門になりかけた時に霊気に起こさせて」
「未来……その話やめてくれよ……」
「はあ!? てめえ、どんだけこっちが助けて!?」
「分かった分かった……まあ、確かにそんなことがあったな……」
「じゃあ、マスターってラッキーボーイじゃ」
「ある意味な。」

 この時、ド座衛門の話から逸らすために、結婚のいきさつを僕は語りました。

「まあ、未来との結婚のいきさつを話すとするか……」
「確か……高1の変装パーティの時か。俺に対する脅迫状が学校宛てに届いてな。お前を誘拐するとかの内容だったな。」
「学校を急遽休校にしようと校長は考えていたが、脅迫状には休校にしたら生徒全員殺害するって書かれてた。」
「俺が素直に人質になろうと考えて、校長に申し出たが、その瞬間、その場にいたマスターが身代わりになると申し出た。」
「マスター、なぜそんなことを……」
「アンドロイドの地位というのは、あの頃はまだ低かった。女性アンドロイドは、拉致されて、洗脳された上で、違法売春宿に売り飛ばされてたことなんてよくあった。女装に自信があった自分は、未来を大事なクラスメイトとしてみなしていた。だから、そんな悪夢から守ろうとした、わが身をもって。」
「ほう……俺がクラスの人気者だったから、いなくなったらみんな悲しくなるからだったじゃないのか?」
「それもあるけどな……お前を1人の同じ人間として見ていたから。お前が奴隷になると考えたらゾッとした。アンドロイドはもはや、奴隷じゃない。祝福されるべき人間に近い存在だ。一種の憤りが己の中で暴れていた。今動かねばロクなことにならない。だから、身代わり志願したのだ……」
「お前……」
「玉砕は覚悟してた。脅迫状を送ってきたヤツのアジトについては、サイト上の噂掲示板で調べた。噂だから、不安だった。だが、時間なかったから信じるしかなかった。」
「んって、マスター、そんなリスキーなことをやってたのか!?」
「すまんな、わざと隠してたんだ。そんで、常に通学バックに隠し入れてた手持ち錫杖と経帷子を持ってくるように言づけてたな、確か。」
「はじめ、あんなものが本当にバックに入ってたから、一瞬ビビったからな……しかも、アジトの窓まで持ってこいって……こいつの脳みそ逝かれてんのかって」
「まあ、無茶な頼みだったけどな。ヤマをはって当たってたからよかった。」

しおり