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訓練場

 れいが創造した世界の管理補佐達に名前を付けて五年程の時が流れた。
 その間に、れいは管理補佐だけでなく創造した世界にも名前を付けていた。その方が、説明する際に異世界だと理解しやすいのではないかと考えて。
 そうして考えた世界の名前は¨ハードゥス¨。管理している世界の言葉で、様々なモノが入り混じる世界という意味がある。
 名付けというのは大変ではあるが、管理補佐の時も含めて、れいは自身に対して以外はそこまで長く悩まなかった。やはり見た目が客観的に見えるかどうかというのがあるのだろう。いくら第三者視点で自身の姿が見えるとはいえ、中身の方まで完全に第三者視点で考えている訳ではないのだから。
 何はともあれ、名付けは済んだ。当分は勘弁してほしいとは思うが、現在のところ全て済ませたと思うので、当分はないだろう。
 最初の人が流れ着いた後、それがきっかけとなったかのように十人ほどの人が流れ着いた。一気に全員が流れ着いた訳ではないのだが、ただ残念ながら全員警告を無視したのでれいにより消滅させられた。
 流れ着くモノを選べないというのは面倒なところではあるが、れいにとっては処分する僅かな手間が面倒というだけ。それに、だからこそハードゥスという名をこの世界に付けたのだ。流れ着くモノは選べず、さりとて受け入れない訳にはいかないという、無秩序で混沌とした世界。
 そんな由来の為に、基本的にはペットを飼育している区画はハードゥスの範囲外とも言えるのかもしれない。今のところは。
 もっとも、受け入れた後の処遇は完全にれい任せなので、そこである程度はふるいに掛ける事が出来るのだが。
 人以外にもまた色々流れ着いてきた。数は当初よりも大分落ち着いてきたが、それでも世界の数が増えたので、落ち着いた後には徐々に増加傾向にはある。
 そろそろ漂着物を集めている一角が手狭に感じ始めてきたので、少しペットの区画を狭めようかと考えている。元々ペットの区画はかなり広めに確保しているので、漂着物を集めている一角の広さを倍にしても全く問題ない。必要なら世界自体を広くすればいいのだから。
 その辺りも考えながら、今日もれいは見回りをしている。
 そして、今向かっているのは居住区画から少し離れた場所に創った訓練場。流れ着いた少年少女達が鍛えるための場所で、指導しているのは居住区画の管理を任せている管理補佐の男性。名前をメイマネ。れいが管理している世界で保全管理という意味で、そのまま建物を含めて居住区画の保全管理を任せているから名付けた。
 メイマネは長身で細身の男性で、いつも掃除がしやすそうな服装をしている。しかし、そんな恰好だというのに、どこぞの高位貴族かというほどの気品を感じさせる男性であった。
 れいは自身が創造した世界であるハードゥスではあまり自重する気はないのか、管理補佐とはいえ、格で言えば創造主級。得手不得手があるので格と強さは必ずしもイコールではないが、それぐらいの強さはあった。
 純粋に戦闘力として考えると創造主よりも強い。ただし、同格のはずのラオーネとヴァーシャルには劣る。モンシューアとならばいい勝負ができるかもしれないが、それでも少し劣るだろう。メイマネの本領は掃除や保守点検にあるのだから。
 それでも少年少女に教えるぐらいは軽いもの。得意な得物は長柄物。モップとか箒を扱うのが上手いからだと思われる。
 特殊な力も問題なく使用出来る。その辺りの知識や技術もれいは惜しみなく授けているので、指導に際して不便はないだろう。
 程なくして見えてきたのは、高さ六メートルほどの建物。横幅がその何倍も広く、明らかに住居用ではないのが分かる。
 れいは機能の方を重視するので、見た目はありきたりな外観をしているが、実はれい以外では壊せないほどの頑丈さがあった。
 訓練場なのでそれぐらいの頑丈さが必要と判断してれいが創ったのだが、れいは無敵の存在のために如何な方法でも傷が付かないので、残念ながら内部の保護機能までは考えていなかった。なので、もしも建物内で爆発でも起こそうものなら、建物は無事でも、内部の人は爆発からは自身の力で身を守らなければならないという事。
 とはいえ、れいに頼めばその辺りは改善してくれるのだが、今のところそれが問題になった事はなかった。因みにメイマネはその事をしっかりと理解しているので、少年少女には最初にその部分も説明している。
 訓練所内に足を踏み入れると、途端に内部の音が聞こえてくる。距離があるとはいえ、居住区画の近くに在る訓練場という事で、遮音もしっかりとしていた。それどころか空調設備も整えているほど。
 訓練場内では少年少女がメイマネの指導の下、訓練をしていた。
 少年少女は流れ着いた当初の飢餓寸前のような姿からは想像もできないほどに逞しくなっており、随分と背も高くなった。それぞれ力もつけており、そろそろ森の浅い部分であれば入ってもいいかもしれないと思えるぐらい。
 森の浅い部分でも木の実や山菜が多少は採れるので問題ないだろう。その辺りであれば、魔蟲もそう多くは生息していない。
 後は武器や防具だが、それは流れ着いた物を持たせれば問題ない。そういった物はメイマネに管理させているので、メイマネの判断で与える事だろう。その辺りの裁量は管理を任せた時に許可している。
 どうやら特殊な力の扱いは少女の方が優れているらしい。まぁ、それほど差がある訳ではないが。少年少女の世界ではその技法を魔法と呼んでいたようだ。
 総合的に判断すれば、少年の方が僅かに上だろうか。だが、強さとしてはほぼ同じと言える。
 そんな二人の訓練風景をしばらく眺めていたれいだったが、次の漂着物が流れ着いたのを感じて訓練場を後にする。どうやら今回流れ着いたのは人のようであった。

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