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私の名は……

 名前。それは呼び名であり、そのモノを表す言葉でもある。管理者もペットに名前を付けたが、自身には名前を付けていなかった。
 しかし、名付けというのは意外と難しいもので、どういった名前にすればいいのかと悩んでしまう。
 他の管理者達は、生まれて間もない新人以外はほぼ全てが名前を持っている。その大半は創造した者達が付けた呼び名をそのまま名乗っているようだ。
 だが、管理者は今まで一度たりともそういった者達の前に姿を現した事が無いので、他の管理者達のように名前を付けられていたりはしない。
 管理者がペットであるラオーネ達に名前を付けた際には、見た目から考えたものだ。
「………………」
 そう思い出して、管理者は自身を見下ろす。だが、服が見えるだけで他は確認出来ない。しょうがないので、第三者視点で自分を見てみる。管理者は肉眼以外ではモノが見えないというほど能力は低くない。
 その視点から見た管理者自身は、青混じりの銀髪を背中の中ほどまで伸ばした女性で、顔は作り物のように整っており、じっと立っている様は人形のようだった。
 服装は濃紺を基に白地の布を中央に縫い付けたもので、要所要所にフリルがあしらわれていて気品を感じさせる。
 手には光沢ある白い手袋をはめ、足下はフレアスカートですっぽりと隠れており、肌の露出は顔部分ぐらい。
 それが現在の管理者だが、そこでそういえばと思い出し、管理者は何処からともなく取り出した鍔が楕円形の形をした帽子を被る。
 管理者が創造主から任されて管理している世界の管理補佐の一人で、今着ている服装を選んだ人物から渡されたその帽子は、顔の部分にしっかりと影を作ってくれるので、快晴の日でも眩しくはない。
 さて、そんな自分の姿を確認したところで、管理者は自分にどんな名前がいいだろうかと首を捻る。見た目から人形やら令嬢やらと頭に浮かぶが、そんな名前もどうかと思って却下する。
 他の世界では、守護者やら神やらと管理者や管理補佐を崇めているところもあるが、大抵それも○○神とか○○の守護者のように、名前やその存在を表す何かの後に付けられるものだ。それ単体だと指す範囲が広くなりすぎるだろう。
 では、他に何が在るだろうか。そう思うも、抱く印象は似たようなモノだ。そこから何か連想していくにしても、何と言うか、自身の事だとイマイチいい案が思い浮かばないモノであった。ラオーネ達の時だと、親しみを籠めたりとか思いついたというのに。
 では、外見以外で何かあるだろうかと考えてみる。管理者は創造主が生み出した最初の管理者であり、現在は創造主と管理者達との連絡要員のような事をしている。
「………………」
 そこまで考えて、少しなんとも言えない気持ちになった。何故創造主はわざわざ管理者を通すのかと。
 だが、今はそんな事を考えている場合でもないので、管理者は思考を切り替えて、とりあえず最初の管理者というだけにしておこう。
 最初という事はその辺りから名付ければいいのだろうか。管理者はそう思うも、それを自ら名乗るのもどうかと思ってくる。だが、事実そうなのだからしょうがない。管理者は唯一の第一世代なのだから。
「………………」
 第一世代、それは確かにそうなのだが、第五世代と第六世代以降で能力に差があるのと同様、第一世代と第二世代以降でも能力に差がある。それも第五世代と第六世代以降の差とは比べ物にならないぐらいに圧倒的に。
 現在創造主が創造した第二世代以降の管理者全てが力を合わせても創造主には勝てないのだが、第一世代である管理者は単独で創造主を軽く超える。それこそ、第二世代以降の管理者と創造主が力を合わせても戦いにすらならないほど。
 それだけ能力に格差があるのだ、いくら第一世代とはいえ、他の管理者と同列のように語るのは違和感があった。正直、管理者は他の管理者を同格の存在だとは微塵も思っていない。管理している世界もまた、管理者の世界だけはあまりにも特別なのだから。
 そう思うと、第一世代というのにも違和感を覚える。実際に第一世代なのだから訂正するつもりはないが、そこから名前を考えるのは止めておこう。
 では、何から考えればいいか。いっそ、その隔絶した能力の差を考慮してはどうだろうか。そんな事まで思う。
 名付けというのは難しい。それでも今考えないとまた当分考えもしないだろうから、今の内に決めておきたいところ。
 ぐるぐると様々な要素が浮かんでは消していく。もういっそ誰かに決めてもらった方がいいのではないかとも思ったほど。
 そうした思考の渦を経て、管理者は結局最初の容姿から決める事にした。
 最初に抱いた感想は横に措くとして、一般的にこの作り物めいた容姿は美しいとかそんな感想よりも、冷たいと思うのではないだろうか。今まで出会った者達もそんな印象を抱いていた事を管理者は知っている。
 冷淡、冷酷、冷然……何だっていいが、とにかく冷ややかな印象らしい。実際あまり相手に興味が湧いた事はないので、間違ってはいないのだろう。
「………………レイ」
 ふと、そんな単語が口から漏れる。管理している世界で冷たいという意味だが、名前を考えるのも疲れてきたところだったので、もうそれでいいのではないだろうかとも思えてきた。
 ただ、そのままだと印象そのままだなと思えてくる。それでも問題は無いが、ペット達に名付けた時には親しみやすいようにというのを意識したので、そう思えば、自分だけそのままというのもどうだろうかと考えさせられる。
「………………れい」
 きっと疲れていたのだろう。もしくは興味を失っていたか。印象そのままな冷たい響きながらも、なんとか可愛らしい感じを意識した結果、そうなった。やはり疲れていたのかもしれない。それでもこの瞬間、管理者は自らの名を¨れい¨とすることに決めたのだった。
 それと共に、折角だからこの地の管理補佐達の名前も近いうちに決めておこうと思った。創造主から管理を任されている世界の管理補佐達は、既に何かしら名前を付けられているから、そちらはわざわざ考える必要はないだろう。

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