閉鎖都市

　
そんな僕を冷静な目で観察(かんさつ)していた者がいた。

小さな保護者(ほごしゃ)ナビだ。

ナビは少女の膝(ひざ)を陣取(じんど)り、
少女を見上げ助言(じょげん)を始める。

「警告(けいこく)！
　隣(となり)に発情(はつじょう)した|思春期(ししゅんき)の獣(けもの)がいる」

　ダイアローグが崩壊(ほうかい)している！

だが少女はその助言(じょげん)を真摯(しんし)に受けとめ、
僕を見つめていた。

『発情してるの？』

拙速(せっそく)過ぎる質問(しつもん)に僕は、
火照(ほて)る顔を背向(そむ)けるとうそぶいた。


「きっ・・・気のせいじゃない」

冷静とは言えない語調(ごちょう)が漏(も)れ出ていた。

動揺(どうよう)が気まずい沈黙(ちんもく)を永(なが)く感じさせる。


「その、君の髪の色変わってるね」

『変？』


「いや、かわいいよ」


『かわいい？
　それは生殖行為(せいしょくこうい)がしたいと言う事？』

飛躍(ひやく)しすぎだ！？

「いや恋愛対象くらいで・・・　」

『了承(りょうしょう)。　残念(ざんねん)』

そう呟(つぶや)くと少女はまた外の景色(けしき)を眺(なが)めていた。


残念？

残念と言ったのか？

残念の意味は確か・・・


脳内の電子辞書が急速にその単語を検索する。

思った様にならなくて残念だ。悲しい。
不憫(ふびん)だ。喪失(そうしつ)。残念な人。


少女の横顔が過(よぎ)る。


胸の鼓動(こどう)が速まっていた。


何を考えている。
勘違(かんにが)いで痛い奴(やつ)になりたいのか！？

だが少女の単刀直入(たんとうちょくにゅう)なこれまでの言動(げんどう)からは、
そうは思えない。


いや何考えてんだ俺。
冷静になれ。

冷静だ！ 冷静にクールビズ。

冷静さを失えばナビの術数にはまる。


「所(ところ)で君の喋(しゃぺ)り方、変わってるね」

少女は無機質(むきしつ)に俺を見つめ呟(つぶや)いた。

『嫌(いや)なの？』


「いや、嫌じゃないよ。
　かわいいよ。
　けど目立つかな」

『嫌なら止(や)める』


「止めれるの！？」


『分かった善処(ぜんしょ)する。
　ごめんなさい、お兄ちゃん』

俺、そんなプレー強要(きょうよう)してないよ！？

それを見てナビが呟(つぶや)く。

「変態(へんたい)だな」

少女がそれに応(こた)えた。

『ソウヤは変態』


どこで間違(まちが)えた！？


俺の思考(しこう)は暗雲(あんうん)の渦(うず)に呑(の)み込まれていた。