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ダンジョンクリエータ-

 指導のシステムから管理者達の交流まで問題なく機能しているある日の事。
 管理者にも大分余裕が出来てきたその日、管理者は少し前にペットにしたモンシューアの暮らす海の中に居た。
 広さも深さも十分なようで、海中を自由に泳ぐモンシューアは、既に海の王といった風格を漂わせている。後は海に棲む者達を増やしさえすれば解決するのだが、この辺りは漂着物次第なので何とも言えない。
 管理者はこの世界で極力創造を行わないようにしている。管理者達の交流の場は別としても、ここは本来ペットを飼育するためだけの世界だったので、それに必要そうな物以外は創造するつもりはなかった。この世界はあくまでも趣味で管理しているのだから。
 そんな場所で創造主から漂流物の受け入れを強制される。元々不要なモノは創造するつもりはなかったので、広い世界にモノが増えるのは問題ないのだが、それでも急な話だったので不満は残った。
 それから漂流物の受け入れを始めて、大量の漂着物が流れてきた。それを全て受け入れ配置し今に至るのだが、少し前にまた創造主が勝手な事を押しつけてきたので、その辺りでもまた不満が募った。もっとも、だからといって管理者は創造主に弓引くような真似をするつもりはないのだが。
 まぁそれはそれとして、そんな状況でも、この世界に流れ着く生き物の数は極端に少ない。海の中の話で言えば、モンシューアを除けば魔魚と呼ばれる魚が少しいるぐらい。流れ着いたのも百匹にも満たなかったほど。
 それから大分時は経ったが、それでも広い海を埋めるには少なすぎる。この地には天敵が居ないというのに繁殖速度も遅い。おそらく魔魚となってから身体能力が上がった分、繫殖能力が低下したのだろう。数と言うのは弱者の特権でもあるのだし。
 なので、そろそろ次の生き物が漂着して欲しいものであった。海の生物でなくてもいいので。
 ちなみに、森に棲む魔蟲に関しては結構な数に増えていて、四桁どころか近いうちに五桁に到達するのではないかというほどの勢いだ。こちらは強くなったと言っても、元の世界ではまだ弱い部類に入るからだろう。そろそろ天敵を期待したいところ。
 そんな事を考えつつも、管理者がモンシューアと戯れていると、新たに管理者の創造した世界にやって来る存在を感知する。
「……………………」
 それを感知した管理者は、思わずモンシューアを愛でていた手を留めて首を傾げる。それと共に、元の世界でそれがどんな存在だったのかも調べていく。
 そうして分かった事を頭の中で整理しつつ、やってきた漂着物を誘導する。その誘導先は地下迷宮。ついこの間少しだけ手を加えたばかりのその場所だが、やってきた存在を置くにはそこが最適そうであった。
 程なくして流れ着いたのは、体長五センチメートルほどの細長い存在。見た目はミミズの体表を見た目だけ硬くしたような存在。しかし、この世界に無事に流れついたという事は、これがただのミミズな訳がなかった。
 管理者はそのミミズに向かって意思を送る。教えるのはこの世界の説明と注意事項。その内容は時期によって微妙に異なるが、内容自体は然程難しくはない。
 まず、この世界が相手にとっての異世界である事の説明。
 次に、この世界を害しようとするなら消滅させるという宣告。
 最後に、管理者が敵と認識した場合も消滅させる事を説明した。
 具体例としては、武器を向けるなどして敵意・殺意など敵対行動と判断出来る行動。
 警告を無視する行動。
 悪意・害意などの管理者に対して負の感情を伴った行動をする事である。これはあくまでも例でしかないが、心に留め置くようにという物である。
 その説明をしながら、管理者は相手に実力差と言うのを教える為に威圧しておく。この辺りはペット達との交渉時や世界を管理していて学んだ事だ。どうやら圧倒的過ぎる彼我の差を理解出来るような優秀な者は少数派らしいという事を。
 そして、その成果があったからか、相手は怯みながらも了承する。管理者としては相手の意思は関係ないのだが、了承してくれるのであればその方がいいだろう。
 その後は住処の話だ。相手は元の世界では、ダンジョンクリエーターもしくはダンジョンマスターなる名前で呼ばれていた存在らしい。どんな存在かと言うと、その世界ではダンジョンというこの世界で言うところの地下迷宮のような場所が存在するらしいのだが、ダンジョンクリエーターはそのダンジョンを造り出す存在だったらしく、更には造ったダンジョンの管理も担っていたからダンジョンマスターとも呼ばれていたとか。
 なので、管理者はこの地下迷宮の管理を任そうかと考えたのだった。望むなら扉を使って帰ってもいい。その事も追加で説明しておく。
 ダンジョンクリエータ―は少し悩んだ後、試しに管理してみてから決めたいという事であったので、管理者は許可を出した。扉の在る部屋を管理させたら扉が反応するのかどうかも確かめたかったところなので、管理者としても願ったりの申し出だった。
 そうした一通りの説明を終えた後、管理者はダンジョンクリエーターが力を発揮させるために必要な力と同種のものを創造して地下迷宮内に充満させてやると、準備は整ったので地下迷宮を任せて地上に出る事にする。まともに会話が出来る存在の漂着は初めての事であった。

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